『アレッサンドラ ー生命と継承の物語ー』レビュー
── 名を与えることは、命を託すこと──
レビュアー:ひまえび
名前を持たぬ少年に、王女が名を与える──その瞬間から、物語は静かに深く動き出します。
本作は、壮大な世界観を持つ「トランセンディア・スパイラル」シリーズの外伝として書かれていますが、シリーズ未読でも十分に感情移入できる独立した一作として楽しめます。舞台は王城とその外、そして自由を求める王女アレッサンドラの旅路。彼女が森で出会う、名前のない少年との交流が物語の核となっています。
アレッサンドラが彼に贈った名は「ヴィト」。生命を意味するその名前は、彼の存在に確かな輪郭を与えただけでなく、物語全体の主題──「継承」と「命の意味」を象徴する重要な行為となっています。
読み進める中で、ヴィトの正体が少しずつ明かされていきます。無垢な少年として描かれていた彼は、実はアレッサンドラの“未来”を担う者であり、彼女の選択によって生まれた、次の時代そのものだったのです。つまり、ヴィトという存在は、彼女自身の成長の証であり、そして王国の未来の姿でもありました。
「名を与える」という行為が、ここまで豊かな意味を持つことに、私は驚きました。それはただの呼び名ではなく、命の意味づけであり、存在の肯定であり、未来への祈りだったのです。
文章は静かで端正。派手な展開はありませんが、その分、登場人物の心の動きや言葉の重みが読者の心に深く響いてきます。決して饒舌には語られませんが、だからこそ、ひとつひとつのシーンに含まれた感情が丁寧に伝わってきました。
たった18話で綴られるこの幻想譚は、王女と少年の物語であると同時に、「命が継がれていくとはどういうことか?」を静かに問いかけてきます。読後、じんわりと胸に残る、そんな作品でした。