あまりにも、まばゆくて
江東乃かりん
あまりにも、まばゆくて
一眼レフカメラを抱えた私は、繁華街すぐそばのイチョウ並木のライトアップに一人でノコノコとやってきた。
「寒いし、まぶしいよー」
ギラギラに光る電飾に加えてカップルのイチャつき具合の相乗効果もあって、お一人様で来ちゃった私にはあんまりにも眩しすぎる。
「ライトアップを撮影したかっただけなのに」
テンションがだだ下がりまくってしまい、カメラを持つ私の手が沈んでいく。
恋人たちがスマートフォンを片手に楽しく自撮りをしている中で、一人だけガチカメラ装備な私の肩身が狭すぎる。
私の趣味は一眼レフでのカメラ撮影。
春は桜、夏は海、秋は紅葉で、冬はライトアップ。
自己統計によると冬のライトアップが一番カップル率が高すぎる。
ムード出るからね、しょうがないよね。
分かってたのに何で一人で来た、私。
いたたまれないし、撮影しないで帰ろうかなあ。
と思っていたとき、後ろから男性の明るい声が聞こえてきた。
「じゃあ撮りまーす!」
カップル相手にインスタントカメラで写真を撮っている人の声だった。
「ありがとう!」
「へー、インスタントカメラってこんな感じなのね」
出来た写真をカップルに渡していた男性と目が合う。
カメラ仲間だ! と思ってペコリとお辞儀すると、彼も返してくれた。
「お姉さんも記念に撮ります?」
お姉さんと呼ばれたけど、彼の見た目は私と同じくらい。
「もちろん、僕の趣味なんでお金は貰わないですよ」
「遠慮します。一人で来た記念を撮られても虚しさで爆発するだけなので」
「なるほど。じゃあ僕と撮ります?」
なんでそんな発想に?
「買ったインスタントカメラを使いたくて来たんですけど、そうは言いつつ僕も一人で寂しかったんです」
平然とカップルの写真を撮っていると思っていたけど、彼もいたたまれないと思っていたみたい。
「周りはカップルだらけですからね」
私が一眼を片手に肩を竦めると、彼は面白そうに笑った。
「ところで、新手のナンパかなんかです?」
「まあ。あわよくば、と思わなくもないです」
彼もインスタントカメラを掲げて微笑んだ。
「それより、せっかくのぼっち同士なので、記念にどうですか?」
「ふふっ。どんな記念なんですか」
茶目っ気のある笑顔が印象的な彼に惹かれて、私は思わず頷いた。
「じゃあ撮ります! はい、チーズ!」
「チーズって古くないです? おじさんみたいですよ」
「えっ? そうなんです? まだ僕おじさんって歳じゃあないんですけど。今どきなんて言うんでしょうか」
「ふふふっ。今どきなんて言い方、益々おじさんみたいですよ」
「えーっ! そんなことないですよね!?」
「あははっ。どうでしょうね?」
不思議と会話が盛り上がっている間にセルフタイマーが切られる。
「おっ、きれいに撮れましたよ。はい、記念にどうぞ」
「ありがとうございます」
出来上がった写真には、キラキラなライトアップに照らされた初対面同士の男女が、眩いくらいの笑顔で写っていた。
彼との会話は意外にも面白くて、もうちょっと話してみたかった。
けれども、彼とはそこで別行動してしまった。
なんでだろう。
なんだか、それ以上話を続けているのがもったいないと思ったから……かな。
彼との写真を鞄に仕舞った私は、一人でライトアップの撮影に向かう。
一眼レフのファインダー越しに、撮りたての写真に写る彼の笑顔が不思議と浮かび上がってくる。
やっぱり、もうちょっと話してみたかったかも。
……そう思って元の場所に戻ったけど、彼はもういなかった。
家に帰った私は、撮ってもらった写真を手に寝っ転がる。
「まぶしいなあ」
天井にはこうこうと煌めくライト。
手元にはキラキラと光るライトアップや背後にした、出会ったばかりの笑顔な二人が映る写真。
面白いなあ。
初対面なのに、なんでこんなにも眩しいくらいの笑顔で写ってるんだろう。
「……また、会いたいな」
明日もライトアップ会場に行けば会えるかな。
そう思うと、不思議とドキドキしてくる。
偶然出会った関係性の私たちだけれども。
また近いうちに、キラキラと輝く景色の中で、再び会えますように。
~了~
あまりにも、まばゆくて 江東乃かりん @koutounokarin
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