墓石と待ちぼうけ

@ryuma081111

第1話

墓石の待ちぼうけ


『明日俺が死んだのならさ、火曜日のゴミの日にでも出しておいてくれよ』


彼は日頃から唐突に変なことを言い出すやつだったが今回は特に奇妙だった。そして、なんとも味気の悪いメッセージを残したまま、翌朝、立川は行方をくらました。


あの言葉があるから、死んだのか、死んでいないのか。気が気で夜も眠れない。熱帯夜のむんむんも相まって起きたままうなされるような不快な時間が流れた。


果たして立川は本当にその命を失ったのだろうか。であるとすれば,先のメッセージは遺言としてあまりにも不合格だ。第一倫理観の欠片もない。これほど酷な願いはあるだろうか。ごみにまみれた霊柩車などに恋人を連れ去られる立場にでも立ってみろ。しかも彼の死体がそもそも手元に存在しないのだからやはり私を置いてけぼりにする。もしかしたら彼なりの親切なのかもしれない。俺が死んでも悲しまないで日常として処理して欲しいという無責任な優しさなのかもしれない。やはり彼は何もわかっていない。


思い立ってみると立川はいつも無責任に先を急ぐ。なんだか夕立のようなやつだ。表れたかと思うと急に私の人生の一等席を陣取って、あっという間に消える。あいつとの出会いもそうだった。



死んだのなら「死んだぞ」と報告して欲しいものである。さあ今だぞ立川。今玄関をこじ開けてその飄々とした顔を見せてみろ。今日の行動を余すことなく説明できたのなら許してやろう。説明ができなくともただ抱きしめてくれるだけで良い。それだけで私はこの「夏の夜の拷問」から抜け出すことができる。私の胸の鬱憤をお前の夕立のように爽やかな笑顔で洗い流してくれ。


しかしその期待とは裏腹にいつまでも蒸し暑い夜は続くのであった。夕立の後に残る蒸し暑さのように私の心の苛立ちは一層大きさを増していく。

ポツポツと雨の音が聞こえ始めた時、爽やかな香りが鼻腔を燻った。

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