第5話
自分の部屋へと帰った私は、ペンダントを見て、うーん、と悩んでいた。
使い方が書かれた小さいメモも一緒に入っていて、それによると、ペンダントをつけて、相手にハグをすれば作動するらしいんだけど……。
……っていうか、大体ハグするって無理だよねぇ。
嫌いな相手からのハグなんてあの二人が受け入れるとは思えないし、ボコボコにされるのがオチなのでは……?
とか思っていたら、リモさんの渡してくれた袋の中に他にもまだ何か入っていることに気がついた。
出してみると、小さな薬瓶が二つ。
一つはラベルによると……睡眠薬だ。……これで寝てる間にやっちゃえってことなのかな……?
もう一つの方は……なんか見覚えあるような……。
「って、これ、さっきの妊娠薬じゃん!」
びっくりしてメモを見直すと下に小さく、
『一応、最初に言ったプラン用に妊娠薬も入れておくよ』と書かれていた。
り、リモさんったら……。
ーーコンコン
そんなことを考えているとノックの音が聞こえて、あわててペンダントと二つの薬瓶を袋にしまう。
なに?、と返事をすると、扉が開いてラピスが入ってきて、
「ん、夜ご飯の準備できたから呼びに来た」
ーーあ、そっか、今日は一緒に食べる日だっけ。
普段は別々に食事を摂っているんだけど、
数年前に途中加入した事務員の子が『同じパーティなのに一緒に食事をしないのは変ですよ』って言って、それから多い時で月に一度、夜ご飯を一緒に食べる日が設けられるようになった。
ーーまあ、元々、仲が悪くなる前はずっと一緒に食べてたんだけどね。
「うん、分かったすぐに……」
行くよ、と言いかけた私の声はゴト、と何かが落ちた音で途切れた。
見ると、ベッドの上から小瓶が落ちていて、それがそのままの勢いでコロコロとラピスの足元へ転がって行って……、
って、あれ!妊娠薬だ!
焦ってたせいで、ちゃんと袋に入ってなかったのかも……!
「ん、ソフィア何か落とし……た……」
小瓶を拾ったラピスの顔が少し曇る。
「薬?……ソフィア、どこか悪いの」
「あっ!えと、その……」
なんの薬か気になっているのか、ラベルを探すように瓶を回すラピス。
そしてーー、
「妊……娠薬……?」
「あはは……」
誤魔化すように笑って、返してもらおうと手を伸ばしたんだけど……
「…………」
なぜか、ラピスは手を振るわせながら自分のポケットにそれを入れて、何も言わずに部屋から出て行ってしまった。
「え?」
びっくりしながら後を追う。
「ねえ、あの……?」
呼びかけてもこっちを振り返りもしない。
それどころか、なんかドス黒い魔法のオーラみたいなのが背中から出ている。
結局、ラピスは私に何も言葉を返さなかった。
……食卓は、いつもより輪をかけて気まずい雰囲気だった。
普段なら一緒に食べることを提案した事務員の子が会話をしてくれるんだけど、その当の本人は、『急な要件が入ったので三人で食べていてください。帰りは明後日になります』とメモを残し、どこかへ行ってしまったみたいだ。
事務員の子がいないと、本当に静かだ。私はもちろん、二人も何も言わないし、静かな食卓に食器を動かす音だけが響いている。
今日はそれに加えて、ラピスがやけにチラチラとこっちを見てくるのが気になる。
うぅ、もう早く食事を終わらせよう。
重苦しい雰囲気の中、急いでお腹の中に料理を納め、食器を洗おうと立ち上がった時、ラピスが言った。
「……ねえ、ソフィア。……なんで妊娠薬持ってたの」
「……なに?」
なぜかクリスが反応して、怪訝そうに私に視線を向けてくる。
ラピスが無言でさっき私から奪った薬瓶を出すと、クリスの目が険しくなった。
二人はじっと、睨みつけるように私を見て、答えを待っている。
……な、なんでこんな責められてるみたいな……、目もなんか怖いし……。
……二人にこっそり盛ろうって友達がくれた……とは言えないよね、絶対。
「べ、別にいいじゃん、なんだって。私、自分のお皿洗わなきゃいけないから……」
後片付けを口実に逃げようとしたら、ラピスがすっと手をかざし、魔法でお皿を綺麗にされてしまった。
に、逃げられない……。
「と、友達が冗談でくれただけだよ……」
本当の理由は言えないので誤魔化して答える。
そんなに悪い言い訳じゃないと思ったんだけど……二人にとっては満足のいく答えじゃなかったみたいだ。
視線で私を殺そうとしてるのかってくらいますますキツくなってきた。
……うぅ、もう我慢できない。
「も、もういいでしょ?私、部屋に戻るから、それ返してよ」
「…………」
ラピスは迷った後、瓶を私の前に置いた。
私はそれを取るために手を伸ばしたんだけど……、
「……」
クリスが横から無言で奪い取ってしまった。
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