相笠さんは金縛りくんにイタズラしたい

おりみみ/ORIMIMI

第1話 ご褒美タイム到来です

「ねえねえ愛ちゃん、ここの相合傘の片方に名前書くだけでいいからさ」

「自分独りで書いて勝手に盛り上がってれば? 授業の邪魔です」

「にしてはノートが白紙だけど?」


 私は相笠愛あいがさあい、私の名前を弄ぶかのように相合傘のイラストを押し付けてくる隣の男は幼なじみの笠原蓮かさはられんです。


 蓮は同じ大学に入るや否や私に告白という名のイタズラを毎日しつこくしてきます。周りからもお似合いだねと言われるほどに浸透し、私はもううんざり度百二十パーセントです。


 ただそんな私の周りをハエのようにブンブン纏わりつく蓮に、合法的に仕返し出来るイベントがあるんです。それが。


「ぅ……急に眠気が……愛ちゃんよろしく頼んます……」


 突然講義中に金縛りに合うイベントです!


 講義中最期のセリフを言い残し長机に倒れ突っ伏し始めた蓮。前触れも無く寝始めた蓮はきっと目を見開いたままのはずです。

 つまり現在蓮は金縛り中、これに蓮は起こして欲しいと私に毎回頼む訳です。


 この原因は近くにお化けがいるとかいないとか……私は信じていませんよ?


 まあそんな事はどうでもいいんです。ここから私のご褒美タイム、日々の鬱憤を晴らす時がきたのです。この時間を天秤に掛けた講義なんてポイ捨て同然。


 はあ、はあ、あ、ついヨダレが……

 別に幼なじみの男が意識を保ったまま絶対に身動きが取れない状況下に置かれているこのご褒美タイムに、興奮している訳では無いです。本当です。


 目を見開いた蓮の前で講義中バレない様に早弁を披露する食テロや、蓮の髪を無理やり三つ編みにしたり化粧したりとか今まで散々懲らしめて来ましたが、今回はその比じゃありません。


 今日のご褒美タイムはくすぐりです!

 朝から草むらで必死こいて探した秘密兵器猫じゃらしによるくすぐり地獄を味わうがいいですよ!


 ……あれ?

 バックに入れておいた猫じゃらしがありません。

 あ、そういえば猫じゃらしをゲットした後いつも通り蓮と大学に登校中。


「愛ちゃん見てあれ、猫同士でじゃれあってるぞ! まるで俺ら二人」

「そんな訳無いです、じゃれ合うなんてもってのほかです……ですが猫可愛いですね。蓮、ちょうどバックに猫じゃらしを二本入れていたんです。私達であの猫を可愛がってあげましょう」


 私はなんて事を!

 猫じゃらし二刀流で攻める作戦を蓮に壊されてしまっていたなんて……!


 蓮をくすぐりまくって悶える姿を堪能する予定が崩壊してしまいます。ああ、金縛り解放後、息を荒らげながら涙目でやめてやめてと懇願する蓮を見るはずが……楽しみにしていた予定を棒に振る事は我慢なりません。


 私の金縛り起こしのプライドに掛けてくすぐり作戦を続行します!

 もちろん素手で!!!


 これは仕方ないのです。猫じゃらしが無いのであれば素手しか方法が残されていないんです。筆記用具すら持ってきていない私は棒一本足りとも無いのですから。

 決して蓮の無防備な身体を触り放題なんて微塵も思って……あ、またヨダレが、危ない危ない。


 ま、まずは定番の脇腹です。


 刺激が直に行く様、蓮の上着と下着を捲り上げましょうか。この方が蓮のお腹が見やすくなりますし。別に幼なじみの引き締まったお腹を見たい訳では無いですよ。


 ここは体育講義がある妙な一般大学。その講義のお陰か立派なお腹に仕上がっている蓮の腹筋がチラ見えする!


 ───カシャッ


「おい誰だー写真撮ったやつは、講義中許可なくスマホの使用は禁止されてるはずだぞー」


 私はスマホをしまいスンっとした顔で手を挙げる。


「はい」

「お、正直に手を挙げた相笠、ボードは写真じゃなくてノートに書き留めるように」

「いいえ、笠原さんの隣にいる増野さんが自撮りピースしてました」

「え!? 私は何も」

「自撮り? 増野、自分が可愛いからって他の人の迷惑をかけるなよ」

「えぇ……ぅぅはぃ」


 ふぅ、バレるところでした。

 マスコットな増野さんは心が塩湖より広いので、私の行いも許してくれます。安心して濡れ衣を着せれますね。後で食堂で大人気な揚げパンを一つあげましょう。


 スマホに納まった蓮の腹筋を眺める。これは何処を重点的に攻めるか見定める為の写真、思わず欲のままに撮ってしまった訳では無いです。


 ……腹筋ってくすぐっても効果ありましたっけ?

 あるはず、いや絶対くすぐったいはずです!


 私は捲し立てられた蓮の上着の下に手を突っ込み、徐に腹筋をさわさわし始め。





 ───あ、もう十五分過ぎてました。


 脳死で腹筋さわさわしていたら腹筋を触る予定時間十分を大幅にオーバーしていました。

 いくら腹筋もくすぐりの範囲内(自己推測)だからと言ってずっとベタベ……くすぐっているのは非効率。脇腹を次いでにちょちょっとくすぐって、そろそろ別の部位に移りましょう。


 次は手のひらがいいですね、あの大きくてゴツゴツした蓮の手を……


 と思いに深けながら次いでの脇腹をちょちょっとくすぐった瞬間。


「───グハッ!」

「え?」


 ムクっと起き上がった蓮が目をパチクリ。


「起き……お、講義がまだ終わってないなんて初めッグハッ───」

「ん? 何か言ったか? 正直に手を挙げてる相笠が言」

「増野さんの発声練習です」

「え!? 私は何も」

「発声練習? 増野、自分の声に自信があるのはいいが時と場合を慎めよ?」

「えぇ……ぅぅはぃ」


 ふぅ、これで物理的に寝たはずです。柔道部の手刀を舐めてはいけませんよ。


 それにしても、まさかくすぐりが本当に効果があるとは……この技は封印しなければ。私のご褒美タイムの消滅の危機です。

 金縛りから起こすのは建前で、あくまで蓮への鬱憤晴らしの一環でなければならないのです。


 そんなこんなで気絶した蓮の腹筋を堪能し尽くした私は、くすぐりで解放された事を忘れた蓮に一連の事を、金縛り特有の怪奇現象だと言い訳をして難を逃れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る