第2話-① ローズマリー・アスター

すごく狭くて痛いという感覚があったのを、覚えている。


私は、声を出すことができない窮屈さと苦しさから早く解放されたくて、出口があるだろうと思う方向へと、一生懸命に進んだ。


周りが見えないので、進んでいるのかがわからないながらもしばらく進み続けると、窮屈さから解放されたと同時に、瞼に光を感じたのを覚えている。


私はそこで、ようやく声を出すことができた。

「オギャー、オギャー」と、大きな声を。


その瞬間は、恐怖心と嬉しさが入り混じっていたと思う。

痛くて狭くて怖かったという気持ちと、やっと解放されたという気持ちが声を出せる状態となって、一気に放たれたのだと思う。


この出来事が強烈だったのか、ここはハッキリと覚えているのだが、そこからの記憶は朧げだ。

だが、私はこの瞬間に生まれたのだと今ならわかる。

これは、私、ローズマリー・アスターが誕生した瞬間だった。


私は、自分の置かれた状況をすぐには理解することができなかった。


菜乃華の記憶が強く残る中で、毎日、毎秒聞き慣れない言葉が飛び交っている環境だと頭が混乱し、常に泣くことしかできなかった。

なので、自分の置かれている状況を俯瞰視する余裕がなかったのだ。


何日間も泣き続けたある日、私自身の声に違和感を覚えた。

菜乃華の妹は生まれて一年も経っていなかったので、聞き馴染みのある声だったのだ。

その時、私は赤ちゃんになってしまったのだと気がついて、また泣いた。

自分自身の声なのに、自分から発せられたものとは思えない声がして怖くても、泣くことしかできなかった。


本能というものは強いのか、思考があっても乳児期の間の私は本能に従っていた部分が多いと思う。

当時のことをハッキリと覚えていたらよかったのだが、あまり覚えていないのがもどかしい。


だんだんと目が見えるようになって、目に映るものが今までに見たことのないようなものばかりだと気がついた。


煌びやかなものが多く、テレビで流れる昔の外国の建物のような、絵本やアニメで見るお城のような空間で、乳児の私は星が掴めないと分かりながらも手を伸ばすように、天井に手を伸ばしていた。

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