六等星
@shimens0ka
さよなら、わたしの星
好きだったアイドルが死んでいたらしい。
アイドルと言っても、実際にライブ会場に行って会うような、みんなが想像するような感じじゃない。
SNSを中心に活動するネットアイドル『須田すてら』。
ピアスをバチバチに開けた地雷系ファッションと、老若男女問わない毒舌が売りの女の子。
癖があるキャラメイクのせいでフォロワーもファンも少なかったし、愉快犯やアンチと生放送でレスバすることも多かった。
「すてら、可愛い子ぶって男に甘える女嫌いなんだよね。それに乗っかる男も嫌い。キショい。ナチュラルに死ねって感じ。」
中指を立てながら生配信で喋る持論は、どう考えたって言い過ぎで。
「は?何?芋?眼球か液晶取り替えて来いバ〜カ!っつーかテメエの顔見てんじゃねえの!?」
アンチへの言い返しは全力投球。
「『すてらちゃん流石にその言い方は…』あーはいはいクソバイスありがと♡今後一生書き込むなよテメエ♡」
(おそらく)善意のアドバイスにも悪意で返す。
彼女はきっと六等星。誰にでも愛される一等星にはならないし、きっとなる気もないんだと思う。
わたしの一番星で、みんなの六等星。きらきら輝く綺麗なアイドルにかき消されてしまいそうな、だけど見えないわけじゃない煌めき。
星というのは、何年、何十年、何百年と前の光が届いているらしい。
その点で言えば、すてらちゃんはまさしく星だった。生配信も収録動画も出なくなった数ヶ月、わたしはずっとアーカイブを眺めてた。彼女の残した光を探していた。暗い部屋の中、青白い光を顔面に受け、人差し指で画面を引き下げ、指を離す。画面は数ヶ月変わらなかった。
そして、今日。スマホに通知が入った。すてらちゃんのSNSアカウントに新しい投稿があったのだ。
期待した。彼女の配信を、動画を、言葉を、声を、姿を期待した。
あったのは、彼女が書いたと思えない文章。
『訃報のお知らせ』
「……は?」
絞り出せたのは、吐き出すための息に音が乗ったものだけ。
読んで、読み直して、もう一度読み直す。読み間違えじゃないか、ドッキリじゃないか、彼女自身のお知らせとは限らないんじゃないか、縋った。
人差し指で画面を引き下げ、指を離す。離す。離す。離す。離す。
ダークモードにして、もう一度読み込む。人差し指を下げ、離す。
何も変わらなかった。
ただの文字列に、彼女の死を叩きつけられた。
目頭が熱い。視界が潤む。吐き気がする。心臓が痛い。
それでも、スマホは手放さなかった。引用欄とリプ欄を眺めるために。
「ようやく死んだw」
「自殺かよダサ」
「ご冥福をお祈りします」
「結局メンヘラかよ〜」
「あいつが嫌ってた女と一緒で草」
ああ、やっぱり。と思うと同時に、すてらちゃんの予想通りで笑いが込み上げてくる。
「すてらが死んだら?誹謗中傷で溢れてるんじゃな〜い?知らないけど!テメエが死んだ時には誰も反応してくれないだろうしせいぜい羨ましがれよバ〜カ」
すてらちゃんの思い通りになって嬉しいのに、いなくなったのがつらい。
なんで、どうして自殺なんてしたの。誰に何言われたの?この世界が嫌になったの?投げ銭だっていっぱいするつもりだった、すめらちゃんはまだまだこれからだった、なのに、どうして。
数ヶ月後。
わたしは今日も、ありもしないSNS更新を見るために、彼女のアカウントを眺めている。固定されているわけでもないのに一番上を陣取る訃報が邪魔だった。無いからといって、彼女が生き返るわけもないんだけど。
みんなはもう、須田すてらなんてアイドルは忘れてしまっているのだろう。
わたしだけ、残された光を眺め続けている。
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