鳥籠の中
有栖華
鳥籠
朝起きると、そこにはいつもと変わらない光景が広がっていた。
あぁ、またここ……
これが夢だったらいいのに、そう何度願ったことか……
「あっ、起きたんだね。初奈」
落胆しながら何とかベットから起き上がったところで、声がした。
この世で最も嫌いな男の声が……
「時雨……」
暗い瞳をしながら扉の方に目を向けると、そこには幼馴染みだった男が立っていた。
「朝ごはん、できたよ。一緒に食べよう?」
「いらない。時雨1人で食べたら?」
「初奈ったらいつもそう言うよね。ご飯食べないと、いつか倒れちゃうよ」
「別にそうなっても私は構わない」
むしろ、そうなった方がいいとさえ思ってしまう。
時雨から逃れることができるなら──。
「駄目だよ。初奈が倒れるなんてことになったら、僕はこの世を恨んじゃう」
にこりと笑ってはいるけど、瞳には狂気が滲んでいた。
あぁ、本当にこいつは狂ってる……
「どの口が言うの。あんたは私を監禁してるくせに……」
「やだなぁ、これは監禁なんかじゃないよ。だって、僕達は愛し合ってるじゃない」
時雨はそう言って、意味の分からないことをほざく始末。
いつから時雨はこんな男になったの……
それとも、最初からこうだった……?
私が騙されただけ……?
「ね、今何考えてるの?初奈。僕以外のことを思い浮かべていたとしたら、そいつのことを殺したくなっちゃうんだけど」
「はっ、安心してよ。あんたのことだから」
「えっ、僕のことを考えてくれてるの?嬉しいなぁ」
今度は幸せそうな笑みを浮かべている時雨。
時雨の重く、気持ち悪いとさえ感じてしまう愛を私に向けられていると思うと嫌気がさす。
本当に辞めてほしいんだけど……
「ねぇ、いつまでここに閉じ込める気なの?」
言ってから、愚かな問いかけをしてしまったと気づく。
こいつの答えは分かりきってる。
「もちろん一生、だよ」
きっと私は時雨から逃れることができないのだろう。
それこそ一生。
もし私が逃げようとでもしたら、恐らく今よりも監禁が酷くなる。
それが分かるくらいにはこいつのことを監禁されてから嫌でも知ることになった。
「初奈、愛してるよ。君のことが初めて会った時から好きで好きでたまらなかった。ようやく手に入れることができたんだ。逃げようとは思わないでね?」
私の考えを見透かしたように微笑む。
ここはまるで鳥籠のよう。
私は鳥で、この家全体が鳥籠。
外に出たくても出ることのできない。
私はずっとこの男の重たい愛を受け続けるしかないんだ……
そう思ったら苦痛で、瞳がドロリと濁ったような気がした。
fin
鳥籠の中 有栖華 @HANAARISU08
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