第四十五話 主人としては黙ってられねーんだわ

『一体何が起こったというのだ。俺様の魔法により貴様等の気配は消失したはず、なのになぜいきなりこの場に現れた』


「現れたも何もねーわ。さっきのでテメーの居場所は掴んでんだよ。移動魔法使って来ただけだろ」


 必殺技が放たれた瞬間、エミリア様は防御壁を張り衝撃波から僕達を守りつつ、移動魔法を使いアントのおさの前に移動し、仁王立ちして対峙した。


『……俺様の魔法からどうやって逃れた?』


「テメーの魔法は触手が収縮するところから始まる。発動のタイミングと着弾点が分かれば、どんだけ威力が凄くても避けるのは可能なんだよ。バーカ」


『ぐぬぬ…だからと言ってなぜこの場に現れた?』


「ウチの参謀を手のひらの上で転がしただと?ふざけんな、ウチの参謀はこれでも頑張ってくれてんだよ。ご主人としちゃーよー、手下が出し抜かれたと思われたままじゃー、黙ってられねーんだわ。テメーはこのエミリア様がぶっ殺してやるよ」


 ひゃ〜!エミリア様〜ちょ〜カッコいい〜。

 もしかして僕のためにブチギレてくれているんですかー?

 エミリア様、僕はおもちゃでも洗濯物にでも何にでもなります。


 !!


「エミリア待ってくれ、コイツが罵ったのは私の恩人だ。恩人を馬鹿にされたからには私も黙っているわけにはいかない。ここは譲ってくれないか?」


 きゃ〜っ!

 今度はレオン様が僕のためにブチギレてくれているんですけど〜っ!

 カッコイイ〜惚れ直しました〜。


「お兄様、素敵なプレゼント期待していいのかしら?」

「ああ、なんでも言ってくれ」


 レオン様は僕のために本当にブチギレてくれているのだろうか?いつも包容力のあるオーラを放っているレオン様から、刺々しく刺さるようなオーラが感じられた。


 レオン様がするりと剣を抜くと兵隊長だと言っていたモンスターアントは玉座のような豪華に装飾されている椅子から立ち上がってきた。


 アントのおさは2メートルくらいあるのではないだろうか。

 形は人型、2本足で立ち、人でいうお尻の部分からアリの腹部に当たるものがでっかくてぶっとい尻尾のように伸びていた。

 腕は4本あり、額の辺りから触覚が2本伸び上がっている。


 剣を取ると上の2本の腕は右上段に構え、下の2本の腕は正眼に構えた。


 なんか、その二刀流って、反則じゃね?


 サッ!

 シュッ!

 ズシャ!


「おに〜さまーっ!」


 え?


 二人の立ち合いは僕には全く見えなかった。見えなかったが探知スキルのお陰か、二人がどんな動きをしたのか映像として頭に流れ込んでくる、、。


 レオン様が一歩下がると、アントが下の腕で突きを繰り出す。レオン様が避けたところを目掛けて上の腕を振り下ろしていた。

 レオン様は2撃目の攻撃に反応が一歩遅れ頬を切られてしまっていた。


 あのヤロー!

 レオン様の綺麗な顔を傷付けやがって〜!!


 ??

 レオン様が頬を拭って血が出ていることを確認した時の表情に違和感を覚えた。

 どしたの?


「テメーがキタねー顔してるからって、やっかんで顔傷つけんな〜!このバッタ顔〜!」


『ふふふ』


 え?

 レオン様が不思議な表情をして佇んでいたので、気を逸らせようと思って叫んだのだが……。

 今までのパターンからいうと、別の種に例えられたモンスターはブチギレるんだけど、バッタ顔は悠々と笑っていた。

 何だこいつ?


 !!

 次の瞬間……

 僕の目に驚くべき光景が飛び込んできた。


 は?何だこれ?

 これってどういうこと?


 肉眼で見たバッタ顔の姿は上の腕が正眼構え、下の腕が下段に構えているように見える。が……僕の探知スキルでは、上の腕が上段、下の腕は正眼に構えているように見える。


 ??


「エミリア様、あのバッタ顔どんな構えをしているように見えますか?」

「え?正眼と下段でしょ?」


 やっぱり!


「僕の探知スキルでは上段と正眼に見えるんですけど?」


「え!……あー!そういうことか!どこから剣が飛んできたのかと思ったらそういうことだったのね」


 僕の言葉にしばらく黙り込んだ後、エミリア様はそんな声を上げた。


 ??

「ちょっと…言ってる意味がわからないんですけど…エミリア様?頭おかしくなったんですか?」

「……アイツ幻術使いでしょ。今見えているのは幻術なのよ」


 ??

 殺されたいの?とか言われるかと思ったのだが、一瞬冷めた目で見てきたくらいで、僕の言葉はサラッと流されてしまった。


「おに〜さま〜っ!」

「ああ、聞こえた、そういうことだったんだな。どうりで予想外のところから剣が飛んできたわけだ」


 ??


「あなた絶対意味分かってないでしょ」

「はい。分かってません…」


 僕の言葉に「ふぅ〜」と大きくため息をついた後に、事の詳細を説明してくれた。


「今の立ち合いで最初にお兄様が一歩下がったでしょ。お兄様の目には下段構えから斬り上げの斬撃がきたように見えていたの。だから、下がったの。でもそれはまやかしだった。次に繰り出された突きを避けたところに、予想外の剣が振り下ろされてきたので頬を切られたって感じね。お兄様だから超反応で致命傷を避けることができたけど、あなただったら完全に斬られていたでしょうね」


 そうか!そういうことだったのか!

 だからレオン様、最初に一歩下がっていたのか!

 そして2本の剣を交わしたと思ったのに、もう一回剣が飛んできた。

 だから不思議そうな顔をしていたのか!


「エミリア様、でもその解釈には、一つ間違えがあります!」

「はー?どこに?」


「僕だったら最初の突きも避けられずに刺されて死んでいます。ふっふっふ、残念でしたね」

「そんなこと!自慢げに言うな〜っ!」


 あはは…確かに。



 キンッ!キン、キン、キン……。


 最初は押され気味のレオン様だったが、激しい攻防を続けているうちにバッタ顔の使う幻術に慣れてきたのだろう。

 バッタ顔の剣が一本跳ね飛ばされ、飛んでいってしまった。


「よっしゃー!さっすがレオン様〜!このバッタ顔やろー、その程度かー!」


『ふふふ』


 バッタ顔はまたしても僕の挑発に薄く笑うだけだった。

 余裕の表情に見え、不気味さを覚える。


 !!

「あのヤロー今度は魔法で攻撃する気か?」


 上の腕は剣を構え、下の腕には火炎魔法を出してきやがった。


 今度は剣と火炎魔法の連携攻撃が始まる。剣を振りかざしレオン様が受け止めるとすかさず魔法を放ってくる。

 レオン様が魔法を避けると踏み込んできて剣を振りかざしてくる。


 くっそー、やっぱり腕4本ってのはズリーよなー。

 でも、レオン様はなんで魔法使わないんだろ?

 何かお考えがあっての事なのだろうか?

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