第26話 ユリのこと・私のこと <スズラン視点>


 最近私は妹のユリに避けられている。



 何かがあって・何かを言われたわけではない……はずだけれど、意識して”避けられている”というのは分かった。


 もちろん無視されているわけではなくて、ちゃんと生活に必要な応対というのはしている──けれど、私を直視しようとはしてくれなくて。


 正直悲しい、心にぽっかりと穴が空いたような・大事なピースが欠けてしまったような空虚感と寂寥感。


 遅すぎたイヤイヤ期・または反抗期・それとも思春期ゆえの”避け”、そう理由付けしないと自分が”嫌われたかもしれない”という事実に耐えきれなくて。


 かなり・ものすごく・私史上最大級にショックではあるけれど…………今の私としては助かっている側面がないとは言い切れなくて。



 私からも妹のユリを直視できない。



 私がユリに触れて、ユリへの”好き”が姉妹のものではなくなりかけた時のこと────それ以降私はユリを意識してしまっているの。


 ふと連想するように以前にユリが読んでいたマンガを思い出してしまう、その…………女性同士が愛し合うジャンルにカテゴライズされるガールズラブ・レズビアン・百合と称されるようなマンガを。


 確かに私の両親が両方とも女性として生まれて・女性同士で子をなし・私たちが生まれたのだから、そういった文化自体に抵抗もなければ今の世の中では十二分にありえるということも理解しているつもりだわ。


 ただ私には誰かと結ばれたい交際願望も結婚願望もない。


 私にとっては家族が第一でユリとアヤメが大切で、二人が家庭を作るならそっと見守っていきたい……なので、私の事に関しては大して興味がなかった。



 ただ私とユリが当事者となると話は違ってきて、私がユリをそういう対象で見るとなると意味が変わってきて、もし仮に・万が一・もしかして私とユリが結ばれてマンガやドラマのような恋愛模様を繰り広げたらどうなるかを想像してしまう。


 そこから先の、ユリと私の子供が出来て二人が両親となって子育てする光景を──



 …………いいわね。



 いい、と思ってしまった。


 でもそれが叶うかどうかは別の話で、私がそれを望んでいてもユリが望んでいるかは…………ないでしょうね。


 ユリという人間は姉フィルターを外してものすごーーーーーーーく他人目線になってから客観視しようとすると────とても冷淡な人間だと思うわ。


 何かを愛しているようでそうではなくて、あくまでもそう周囲に求められていたから、誰かに勧められたから、それに一時は興味は抱いたからそういうキャラクターを演じているだけのように……見えてしまって。


 物凄く冷静にして冷徹にして冷酷に言えば、ユリは私の妹をやってくれている。


 私が姉をしているからこそ笑顔を向けてくれるし・褒めてくれるし・憧れてもくれる、そういうリターンを忘れない人間性というだけ…………かもしれなくて。


 たぶんユリは自分から離れるようなことはしないと思う、けれど一線を引かれていることに対象が気づいて、それを自覚したことで離れていくようであれば引き止めないのでしょうね。


 だから私はユリの姉をやめてはならない、ユリを好きな女性というジャンルの一人になってはいけない…………だから私のこの感情は封印しなければならない。


 この二人が避け合っている状況はまだ深刻じゃなくて、取返しがつくことで、私がちゃんと姉に戻ればいいだけのことで、そうすればユリは妹として私と一緒にいてくれる。


 それでいい、それがいいわ、そうしなければならないの。


 だからこの想いを封印することに決めた、そしてこの一時の熱が冷めて、これまで通りの仲のいい姉妹関係に戻れるはず────だと、思っていたのに。





 私とユリと母さんとリンさんとでの夕食時、明日ユリはサキュバスハーフのことで両親が付き添い病院に行くのだという。



『単なる検査みたいなものだよ~』



 とユリは私を安心させるように言ってくれている、ユリが既に打ち明けてくれているからこそ私もそこに不安はなくて。


 本当なら私も一緒に行きたいけれど、果たして姉妹が病院に付き添うのは普通のことかどうか、それは干渉しすぎではないか、それを考えてしまう。


 実際に私も明日は友達と出かける約束を以前よりしていたから、それを断ってまで行くとなると普通じゃないかもしれない、だから私としては『気を付けて行ってきなさいね』としか言えなくて。


 午前中ぐらいで終わるという病院、私が夕方帰ってくればいつもと変わらない様子のユリが家で待っていてくれるはず、それなら何の問題もないはずよ。


 そう自分に言い聞かせるようにし明日に備えて就寝の準備、あとは入浴して・歯を磨いて寝るだけ…………。



「ふぅ」



 顔を洗って・髪を洗う……だいぶ髪も長くなってきたかしら、そろそろ少し切ってもいいかもしれないけれど『お姉ちゃんの黒髪ロングってめっちゃ似合ってるよね』と、ふと言われた時から私はこの髪が好きで・自信があって、生活に支障を来さない程度にユリが言ってくれた時の長さぐらいをずっと維持している。


 でも私からすればユリのクセっ毛気味の栗色の髪が可愛らしくて仕方ない、だからハネているなどと理由を付けて髪を梳かすという口実にしている、ちょっと姉としては気持ち悪いかもしれない……と、思いながら長い髪を束ねて浴槽に入る。



 最近の私はずっとおかしい。



 ユリの居た場所、ユリが触ったところ、ユリが口を触れたコップの隅、ユリが口に入れた歯ブラシ、ユリの着ていた衣服…………そして今はユリが入ったあとのお風呂。


 節操なしに・無差別的に・ところかまわずユリのことを、その痕跡・名残を意識してしまう、ドキリとさせられて心拍が早くなり体温の上昇を感じてしまう。


 今の私は姉としてはあまりに気色が悪い、さすがにこれはどうにかしないといけない、少なくともそんな私はユリの憧れた私ではないのだから。


 そう入浴しながら心を落ち着けようとしている、していたのに、どうしてか、どういうわけか。



「へ…………?」


 

 このお湯に身体を浸けてから一分も経っていない、それなのにのぼせたように意識がふんわりとして・視界がぼやけて、入浴剤を入れたわけでもないのに体の内側からぽかぽかする感覚。


 風邪をひいて体調が悪い時・寒気がない頃合いでの高熱時に入浴した時の感覚に近いかもしれない、いや、でも、それだけではないのかもしれなくて…………。


 

 ユリが好きで、物心ついた時から好きで、それは本当に姉妹の好きだったのか、今はもうわからなくなっていて、私の好きなものがすべて詰まったような女の子で、好きで好きで好きで愛しくて愛しくて愛しくて、求めたくて欲しくて離したくなくて────私をユリのものにしてほしくて。



 そういうことだったのね。



 私はユリにとっての特別なものにしてほしい、愛されなくてもいいけど嫌わないでほしい、四六時中とは言わないからそばにいてほしい、ずっとずっとずっとずっと────手放さないでほしかったのね。


 この目で見てきた、ユリは自ら手放すことはないけれど離れたらそれで終わってしまうから、家族であることに・姉であることにこだわらない。


 なんだっていい、下十条スズランは私のものだと刻みつけてほしい。


 だから、ごめんなさいユリ。


 私はもうお姉ちゃんではいられないかもしれないわ。



 それからは日常的な動作で無意識にお風呂を出て、着替えをして、自室に戻ったと思うとその口実に自分の枕を抱いて。


 私はユリの部屋を訪ねた。



「ユリ、起きてる?」

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