第14話 百合シーンは眺めると回復しますが?・委員長と話す。



 朝早くの人通りの少ない廊下、そこでは二人の女子が向かい合っていた。



「言ったブツ持ってきたんだろうなぁ?」


「は、はい……」



 一人は指定のセーラー制服の上にパーカーを着たポニテ女子と、もう一人はブレザー制服をきっちりと着込んでかなりの長さの黒髪ストレートな女子だった。

 

 パーカーポニテ女子はブレザー黒髪ロング女子に詰め寄るようにして何かを催促しているようで、もう一人は目線を泳がせながらも頷いて答える。



「こ、これです……」


「これこれ、わかってんじゃねーか」



 その”ブツ”とされるものをおずおずと差し出す黒髪ロング女子。


 途端パーカーポニテ女子が上機嫌になる、人気の少ない廊下にあぐら座りしてそのブツを開いた。



「今日もいい出来じゃね?」


「が、がんばりました」



 パーカーポニテ女子は弁当の前で手を合わせてから待ちきれないとばかりに弁当の具材を口にせっせと運び始める、箸が止まらない様子からご満悦のようだ。


 するとパーカーポニテ女子の隣でブレザー黒髪ロング女子がスカートを後手に抑えながら体を屈ませてパーカーポニテ女子と視線を合わせる。


 ブレザー黒髪ロング女子はというと自分のカバンから乳白色ビニール袋を取り出し、そこからコンビニロゴデザインでパッケージ包装されたサンドイッチを取り出して開封する、そうして「いただきます」と言ってからはむはむとゆっくり食べ始めた。



「でさぁ! 兄貴がよぉ──」


「はい」



 はじめこそ単純なカツアゲと勘違いされそうな場面だったが、実際はというと二人廊下で並んで雑談しながらの朝食を摂っているらしい。


 何故かブレザー黒髪ロング女子の作った弁当をパーカーポニテ女子が食べ、ブレザー黒髪ロング女子は持参したコンビニサンドイッチを食べる構図だ。



「このミートボールうめー」


「良かったです」


「お前も食べろ」


「はい」



 作ったのはブレザー黒髪ロング女子とはいえ、パーカーポニテ女子からナチュラルに行われる”あーん”場面。


 お互いほんのちょっと照れながらも勢いで、それでいてごく自然な流れで、かつどちらも嬉しそうなのがポイント高い (?)。


 にこにこと話しながらも食べるのが早いパーカーポニテ女子はブレザー黒髪ロング女子の手作りらしい弁当を食べ終わると、ゆっくりと食べているブレザー黒髪ロング女子に向き直るように座った。



「遅くてすみません」


「いいぜ。見ていて飽きねえし」



 あぐらをかき、手の上に顎を載せながらパーカーポニテ女子はブレザー黒髪ロング女子を眺めることにしたらしい。


 そこから数分してブレザー黒髪ロング女子がサンドイッチを咀嚼し終わり、持参したペットボトルのお茶で喉を潤したところで──



「ごっそさん!」


「ごちそうさまでした」



 二人手を合わせて挨拶、えらい。



「じゃまた昼食で! オレの弁当も自信あるから期待しろよな!」


「楽しみです」



 そうしては大振りにぶんぶんと手を振って、は小ぶりに手を振って別れた。


 



* *





「(あ~、脳が回復する~)」



 お姉ちゃんが早くに出かけたからと、私こと下十条しもじゅうじょうユリも早くに家を出て学校に着いてみれば、うろついていた廊下でなかなかの百合場面が繰り広げられているではありませんか!


 ブレザーのリボンとセーラーのリボンが同色だから同学年は確定として、廊下で別れたところを見ると別のクラスの女子同士らしい。


 一見だとオレっ子な小柄なパーカーポニテ女子が長身なブレザー黒髪ロング女子から弁当を巻き上げている場面かと思ったらそうでもないっぽい!


 決め手は最後の別れ際の台詞、パーカーポニテ女子が『オレの弁当』と言った点で──ようは朝食と昼食こそ跨いでこそいるものの、女子同士の弁当交換だったのだ!


 クラスを別れたのに朝早い時間にこうして会えるタイミングを作って、それも朝食と昼食を一緒にするとなれば合法的に二人の場面を作りやすいというもの……策士!


 ”あーん”をナチュラルにするあたり・食べる姿を眺めていて嬉しそうにしているあたり確実に仲のいい二人────これはもうほぼ百合でしょう! 私がそう決めました!!


 名前も知らない間柄も知らないけれど、最近見かけた百合シーンの中でもなかなか高得点だった……五億点は固いね。


 そして地味ながらも同学年身長差のある女子同士ヨシ!


 妄想で補填してもいいけども、補填せずとも百合百合しくてよろしい、私もいいものを朝から見れましたごちそうさまでした!!





 思いがけない百合ウォッチ・百合シーンのおかげで体力と精神力と百合力が五〇〇〇〇〇〇〇〇点回復したところで私も教室に向かう。


 この時間の教室だとミドリもまだ来てないかな~と教室の扉を開けると一人だけ先客がいた。



「おはようございます、下十条さん」


「おはよー委員長」



 委員長、本名は 鶯谷うぐいすだにマナカ 、みんなからそう言われていて本人も容認してるし満更でもなさそうなのでそういう愛称に。


 私とは小学校の頃から同じクラスが続いていて、毎回学級委員長になってクラスを率先してまとめるベテラン委員長。


 前髪を切りそろえた黒髪のボブヘアで、昔はおかっぱ? 的な表現で言われてた髪形とアンダーリムのオーバル形状メガネをかけたスタイル。


 左目元の泣きボクロと細くキレイな形の眉がチャームポイントで、ブレザーをきっちり着込みスカートも長めなのでどこか品行方正さを醸し出す女子だ。



「今日はお早いですね」


「ちょっと早く目が覚めちゃってねー」 



 まさかいかがわしい夢を見て飛び起きたとは言えないので普通に目が覚めたことにする、嘘は言ってない!



「課題はやってきましたか?」


「やってきたよー。昨日の一限目の授業映像もちゃんと見たからいつもより時間かかっちゃった」 


「そういえば……下十条さんのそのタイミングは健康診断でしたね?」


「そそ、無作為に選ばれたやつみたい」



 ということになってるし、実際に”サーチ”などで診断もされているので嘘にはならない……はず。


 他の生徒も帳尻を合わせる為にそのうち健康診断をするんじゃないかな……?



「ところで……」


「うん」



 委員長の声はどこか事務的で固めな喋りながらも活舌が良くて透き通る声で耳にすっと入ってくる──



「一昨日に戻りましたね?」


「うん?」



 一昨日に戻る……とは? と、一瞬考えてしまう。


 ”一昨日”と”戻る”というキーワードから私もようやく察しがつく。



「あ~! 昨日の私ちょっと変だったよね~、イメチェンしてみたけど戻した的な?」



 ミドリにはイメチェンと説明した……けど即日戻すのはちょっと苦しいかなぁ。


 家にある・家に無くても専門店や病院やレンタルなどしてのボディメンテカプセルを使って約六時間もすれば”イメチェン”と称せるような身体情報の変更は出来るので医療技術的には間違いないし問題ないんだよね。


 ほんとの正直に言うならサキュバスハーフのことを話すことになるけども、一応ちゃんとした診断・対応・予防策とかを知る前に言うのはどうなんだろうと考えてしまう。


 病院に行く手前と、個人的な感情からお姉ちゃんには話しておきたかったけど~、委員長としてもいきなりそんなこと言われてもだろうしな~?



「はい、あまりにえろ……いえ、色々変わっていて驚きました」



 えろ……? 噛んだだけかな!



「イメチェンがマイブームだからコロコロ変わるかもしれないけどあんまり気にしないで~」



 嘘を重ねていくのだ私は……そんなマイブームもなければコロコロ変わるのも自分の意思じゃないけど最初にイメチェンと言ってしまった手前しょうがない……!


 

「それはお得……いえ、納得しました」



 お得……? 納得したならいいかあ!



「じゃそういうことで~」


「はい、また」



 そうして委員長と別れて自分の席に就く。


 こういうプライベートなことを聞いてくるのは珍しい気もする委員長も、単に昨日の今日で変わっているから世間話のワントーク的に話してくれただけで深い意味はないのだろう。


 というか自分で蒔いた種とはいえこれをミドリにも同じ説明をすることになる感じかなー、うむむ。

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