EX1話 滅亡危機記II ~二度目は実質滅んだ話~
???????の大予言。
数百年前に書かれた予言集の解釈書として数十年前に出版された本。
予言集には「一九九九年七の月に恐怖の大王が来るだろう」と書かれていたところを、「一九九九年七の月に人類が滅亡する」という独自解釈したことで”とある国”では一大ムーブメントを引き起こしたという。
オカルトブームの先駆けでもあった一方で、あまりに具体的に指定された日付からそれを信じたものも少なくなかったらしい。
その本の一説もとい一節を信じたことで学校を退学するもの・仕事をやめるもの・終活するものなどが居たという。
結論から言えばそれらの行動は不必要だった、無意味だった、取り越し苦労だった。
なにせ本当に一九九九年七月三十一日に恐怖の大王がやってきて、その時に今までの人類は滅亡したのだから。
予言集も解釈書も当たってしまったわけである。
この一九九九年七月三十一日を境に世界のルールはガラリと変わった。
それでも予言より前の行動が不必要になったのは、滅んだあともこの世界では学校があり・仕事があり・生活があり──基本的にはこれまで通りの人の営みが続いていったからにある。
その中でも例外的に、かつて$%国と呼ばれたこの場所は二度目の滅亡の危機を迎え、そして今回の滅亡危機もとい永久の平和と引き換えにその国の名前を喪ったのだった。
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$%国ではブームとなっていた予言とはいえ、世界規模で見れば知名度は薄く眉唾ものでしかないはずだった。
しかし一九九九年七月三十一日、宇宙から地球へと向かう物体が観測されたのだ。
歪な岩石にしか見えないそれは小惑星もといその破片としか認識されず、その規模から大気圏で殆どが燃え尽きえる想定がなされていた。
ただその物体は大気圏に到達・通過し始めるその岩石と思しき物体は、次第にベールが剥がれ流線形で銀色の人工物が露になり始め──そして燃え尽きることはなかった。
そこで人類が撃ち落とせれば違う未来があったのか、それとも撃ち落とすこと自体不可能だったのか、撃ち落とせたとしてももっと最悪の結果になっていたか、そもそもこの事象自体が不可避だったのか。
流線形の人工物は$%国の地上から十一キロメートルほどの成層圏と対流圏の境界こと対流圏界面付近で停止。
次の瞬間音もなく破裂し、その人工物だったものの欠片は微粒子レベルまで細かく分裂した上で$%国のみならず全世界中に散っていった。
全世界中に飛散……飛散すらせず破裂した瞬間に生命体を識別して直接移動していた説まであるほどに目にも止まらぬ・観測と実測が不可能なほどの速度だったという。
飛散した人工物だったものは例外なく生命体の体内に侵入し、脳などの神経系の中枢に一瞬にして到達した。
それは地上ではもちろん、空中でも・はたまた地下にいても──生死を問わずに標的として、なお防御することも回避することも出来なかった。
時間にして一〇秒、その宇宙からの侵略者が地球上の全生命体を掌握するのにかかった時間はその程度だったとされている。
この世界を滅ぼした侵略者にして”恐怖の大王”は人類に恐怖を与える隙すら与えなかったのだ。
その人工物だったものは人類がのちのち研究しても”ナノマシンの一種”としか説明しようがなく、その詳細な構造や原理も不明、それはあくまでも自然に発生し得ない極小の機械だったのである。
そのナノマシンが人体などに入ってどういう影響を及ぼしたかといえば、外見上から肉体が変質することもなく、意思のすべてが侵略者に奪われることもなく、生命体が我を失い暴走状態になる……ということもなかった。
ただその時、そのナノマシンが全人類・全人間のみならず全生命体に行き渡った瞬間──生命体の全ての敵意・悪意・愚意・殺意・戦意などが消失した。
ナノマシンが脳内や脳内に類する場所に入り込んだ瞬間、そういった意識が抜け落ちるのと同時に頭が”ぴりっ”とする感覚があったのだという。
「……なんで敵対してたんだっけ」
「どうして悪感情を持っていたんだろう」
「愚かなこと考えてたなぁ」
「そもそも殺したいほどじゃないな」
「戦う意味がなかった」
そういう意識に塗り替わった、ある意味では侵略者に意思を奪われていたのかもしれない。
ただその瞬間、全ての争いがこの惑星上から消えたのだ。
それは人類間もとい異種族間・人間間・動物間・植物間などに至っても。
そうして無血にして誰一人として死ぬことを許さず、この惑星は未知の生命体による侵略であり制圧が成功したのである。
そして八月を迎えたその瞬間、ナノマシンという人工物とともにやってきた侵略者から惑星上もとい全世界に向けて”ある”メッセージが発信されることとなった──
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『純愛以外許しまセーン』
一九九九年八月一日、世界から争いが消えた翌日。
全ての人類などの脳内に直接響き渡る形で、その侵略者のメッセージは届けられることとなりました。
『寝取り・浮気・不倫などは許しまセーン』
男性とも女性とも取れるような中性的な声、謎のカタコトっぽさが残った口調ながらそれぞれ世界中別の言語に対応しているようでした。
『ワタシの生まれた星は寝取り・寝取られで争いが起きて同胞は死に・滅び・その地には住めなくなりマシタ……そして漂流し続けて偶然この惑星を見つけたのデース』
『というコトで生命活動のアルこの惑星をワタシの新たな生活拠点としたいと思いマース』
口調のせいで冗談なのかと疑ってしまうような内容をつらつらとその侵略者は語ります。
侵略者曰くは自身の生まれた星は”寝取り・寝取られ”が理由の争いで滅び、同胞と住む場所を喪ったことで、この惑星へとやってきたのだというのです。
理由は置いておくとしても言っていることは身勝手な侵略者に相違ないことでした。
『もう寝取り寝取られも・人が死ぬのも見たくないのデース……なのでここではワタシの見える範囲で”イヤなもの”を許しまセーン』
『でもある程度寛容ではありたいのデース。なので提案がありマース』
『$%国をワタシの天領? 直轄領? 直轄地? とするなら、他はあまり干渉しないこととしマース』
そう、その侵略者はこの惑星においても宇宙からの飛行物体として最初に近づき・訪れた$%国を治める代わりにそれ以外の国への事実上の不干渉を宣言したのです。
全世界の全生命体の意識を一瞬で操作できるナノマシンがこの侵略者サイドに存在しているであろう時点で今の人類とのその力量差は明確でした。
なにせ侵略者の気分次第では全ての人類もとい全生命体の命を一瞬にして奪える可能性も十二分にあったわけです。
それをしなかった、出来なかったのではなくおそらくは”イヤなので”しませんでした。
そして侵略者は寛容にして一つの国を代償にすれば不干渉であると言ってくれています。
他の全世界中の国からすれば破格な条件、$%国を侵略者に売り渡さない理由がなかったのです。
『代わりといってはナンですが、全ての怪我と病気と不足を失くしておきマシタ』
その時全世界から怪我……消えないはずだった傷と不治の病が消えました。
無かったはずのもの・喪ったはずのものがあるようになりました──あったことになりました。
『そして老け知らず・死に知らずにしておきマース』
その時全世界の生命体が不老不死になりました。
老けない・死なない身体を全生命体は手に入れました。
『悪いことも出来なくなりマシタ、不同意なこともダメデース』
その時からあらゆる犯罪が全て未遂以前に終わる・そもそもが出来ないようになりました。
そして”不同意”による相手の存在する各種行為・行動についても出来なくなりました。
『子孫繁栄は大事デース、それは性別・種族・動植物・無機物・有機物も問いまセーン』
その時同族のみならず、これまで不可能とされた種族間や無機物・有機物を問わず生殖活動が可能となりました。
『ワタシたちの医療・科学技術を使えるようにしたので色々捗ると思いマース』
その時全世界の医療・科学技術などは何世紀分も進み、基本的に不可能なことはなくなりました。
『でもワタシの直轄地となった$%国では寝取り・浮気・不倫などを許しまセーン』
『あらゆることの思想や表現の自由は保障シマース、でも実際にやったらダメダメデース』
『その時はバツがありマース、場合によっては国外追放デース、あまりに悪かったら惑星外追放するのでヨロシクデース』
その時、この国だったところでは寝取り・寝取られ・浮気・不倫の類が想像や妄想や創作までは許されても実際にすることは許されなくなりました。
『この国はラブアンドピースデース』
そうして侵略者からこの$%と呼ばれた (?) 国は、全世界の国家から一致でラブアンドピース国こと略してラブピ国と呼ばれることになりました。
もちろん$%国という名前を憶えている人もいますし、それで全世界にも通じるとは思いますが……正式名称ラブアンドピース国、旧称$%国となったのです。
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この惑星……この世界での新しい共通ルール。
『欠けない』『老けない』『死なない』『不可能はない』『悪いことはできない』
かつての$%国、今のラブアンドピース国でのルール。
『この国ではNTRに類する挙動・行動は許されない』
『ただし考える分には自由、それを表現することも自由』
『しかし行動には責任が伴う』
『NTRとしたものには罰がある』
『NTRすれば罰金刑・懲役刑・教育処置・国外追放・惑星外追放──』
『侵略者は全てを見て・判断している』
こうしてNTR嫌いで純愛好きで”死”と”争い”を許さない侵略者の手にこの惑星は落ちたのである。
一見尊重されたとされる”人権”はどうなっているのか。
不可侵性:侵略者の手によって
普遍性:侵略者の手によって$%国とそれ以外の世界で線引きがなされる。
固有性:あるものにもとから備わっていた性質は侵略者の手によって塗り替えられる。
果たして今の全生命体……人間に限っても、人間たり得るのか、人間らしさは損なわれていないのか──変質して別の生命体となっているのではないか?
今もその議論は研究者などでの間で続けられている──
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