勇者が変態だった
仲仁へび(旧:離久)
第1話
「勇者様、反撃してください! とっととモンスターをやっつけてくださいよ!」
「まだ、もうちょっとこのまま! もうちょっとだけこのままで!」
「いや、囲まれてますって!」
「そこが良い!」
「そこが良い!?」
俺の目の前で勇者様がモンスターに囲まれて袋叩きされている。
ピンチの様に見えるが、楽しんでいるだけだ。
なぜなら勇者様はドエムだったからだ。
他者にどつかれる事に快感を覚える変態だったからだ。
呆れてしまう。
そんな俺は、サポート系の人間だ。
勇者様を補佐する兵士達をまとめている。
普段から勇者様とよく行動を共にしているが、こんな光景はよくある事だった。
俺は諦めて他の兵士に「夕飯の準備するぞ」と告げた。
「これが放置プレイ! なんて甘美な刺激!」
恍惚とした表情の勇者様から視線を逸らす。
俺が何か言っても無駄だろう。
あれはもうだめだ。
けれど、勇者様は最初からこうではなかった。
少なくとも、俺が出会った事はまともだった。
それがおかしくなったのはなぜか?
たぶん、初めての強敵と出会った時だろう。
数か月前。
魔王が信頼する四天王モンスターと出会った。
あっ、俺達は魔王を倒すたびに旅をしているんだが、こいつがかなり性悪で、俺達が旅して進む先々にやっかいな配下を配置するんだよな。
普通の配下モンスターならまだすぐにやっつけられるけど、四天王モンスターはやっかいで、毎回苦戦させられる。
特に数か月前に出会った、あの四天王は本当にやばかった。
勇者様が瀕死の重傷を負ってしまったのだ。
あまりにも多くの攻撃を受けすぎた。
トラウマを追っていてもおかしくはなかったが、ある意味杞憂だった。
勇者様は乗り越える事ができた。
しかし、そのせいで目覚めてしまい、ドエムになってしまったのだ。
「これが痛み! 新しい扉が開いた!」
追い詰められると、人間は時として目を瞠るほどのパワーを発して覚醒する事があるらしいけど、なぜそんな方面だったんだ。
変態の覚醒だなんて。
はぁ、こんな勇者様を人目にお出しするわけにはいかないから、早く何とかしないと。
幸い、一般市民の前では普通にしていてくれるけど、いつボロがでるか分からないんだよなあ。
モンスターなんて百害あって一利なし、あれはゴミ以下のゴミ。
生きているだけ無駄な命なんだから、遊んでいないで早く片付けてほしいもんだ。
はぁ、こんな演技するのは疲れた。
俺は勇者として旅をしている。
人類の希望的な存在だ。
だが、幼い頃に仲良くしていたモンスターたちへの情があって、上手く戦えないのだ
そのせいで、倒すのに躊躇って、いつもまごまごしてしまう。
最初はそれでも頑張って倒していたが、段々心の痛みが増してきて、躊躇う時間が多くなってしまうのだ。
そんな俺の姿を見て、モンスターと通じているなんて思われた結果、あらぬ疑いをかけられたくはない。
だから何とか誤魔化してるけど、いつまで続くだろうか。
勇者が変態だった 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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