第5話 ナオちゃん

そういった訳で、ナオちゃんが運転する車は、なるべく国道を並走出来るように進路を取ってハンドルのかじをきった。




並走して走るのは目的地の家電量販店が国道に隣接して建てられていて近くまで来たときに行きやすいからだった。




国道から一筋、道をそれたわき道は国道を作る時に区画整理されなかったところで所狭しと道の両側に住宅が密集している。




ゆえに自然と道幅は狭いのだった。




それでも、住宅地の垣根から、時折見える国道の様子からすると、道幅が狭いくらいは走りづらい程度の事で、渋滞で車の流れが止まってしまった所より遥かにましなものだった。




しかし、出発したての頃はスムーズに流れていたわき道の状況が次第に隣を並走してる国道のように混み始めてきたのだ。




それは、日曜日の昼下がりって事が大きな原因だと思われるのだが、私たちと同じようにマイカーで買い物や食事などに出掛ける人達が住宅のガレージや月極駐車場から続々と出てきてはわき道に合流してくるからだった。




住宅の一階部分がガレージになっている家から出てきた車の後部座席に座ってる子供が小型犬を抱いて無邪気にはしゃいでる姿を見たとき、どこの家庭も休日の過ごし方など似たり寄ったりだとつくづく思ってしまい混み始めたわき道の状態も致し方ないものだと納得してしまう。




そんな中、妻とナオちゃんは趣味で通ってるヨガ教室の悪口をべちゃくちゃと話していて文句を言いながらも楽しそうだった。




私はと言うとそんな二人の会話を聞きつつ、ナオちゃんのカーステレオから流れてくる音楽を懐かしい気持ちで聴いていた。




かかっていた曲が往年のヒットしたテレビドラマで流れていた曲を集めたベストアルバムだったからだ。




曲を、小声で口ずさみながら、その当時にヒットしたドラマのワンシーンを浮かべていた時、「チェッ」と舌打ちする声がした。なんだ? と思って声の発せられた方を見るとナオちゃんが「出てくんなよ、下手くそ!」と汚い言葉を発していた。




どうやら、舌打ちしたのは月極駐車場から強引に車が出てきてナオちゃんの車の前に割り込んだのが発端のようだ。




それにしても、これぐらいの事で怒らなくてもいいのにと平和主義の私なんかは思ってしまうし、あの礼儀正しいナオちゃんが発したのは意外な感じがした。




しかし、私と違って攻撃的な妻はナオちゃんの発した汚い言葉を擁護するような事を言った。




「ほんと、割り込んでくるのむかつくよね!」




「うんうん。こういうのがいるから道が混むんだよ。日曜とかは特にマナーの悪いのが多いからイラつく。




こいつら、どうせ休みの日しか車乗らないからね」


 




私は二人の会話を聞いてると、なんか見てはいけないものを見てしまったような気分になっていたたまれない気持ちにさせれらた。




「まぁまぁ、お二人さん。そう怒りなさんな。ふだん車に乗ってない人達だから大目に見てあげようよ」


 




私は不穏になりつつある空気を読んで二人の会話に入っていった。




「ところで、ナオちゃんって、さっきから思っていたけど運転上手いよね。やっぱり、普段から車乗ってるの?」


「乗ってるよ。通勤に使ってますからね」ナオちゃんは、少し 鼻にかけた風にあっさりと答えた。




しかし、どうも先ほどからナオちゃんの受け答えは癇にさわる。凄く横柄で嫌な感じだ。車に乗る前までの礼儀正しく穏和な人柄はどこへいってしまったのだろう。






もしや、ナオちゃんは……。


「あぁ、なんでブレーキ踏まないといけないのよ」


 


前車のブレーキランプが点灯するたびにナオちゃんはイライラして文句を言う。




別にブレーキ踏むぐらい安全確保の為ならいいのにと私なんかは思うのだがナオちゃんは気に食わないみたいだ。






「ちょ、こいつ!!」


 


ナオちゃんの機嫌を損ねた車が急にハザードランプで合図をして路肩に止まった。


 




とたんにクラクションを鳴らして怒りを表現するナオちゃん。




そんな彼女の様子を見て私は確信した。




彼女はハンドルを握ると人格が変わる痛い人なんだと……。




この手のタイプのドライバーの特徴はとにかく運転に関しては自信過剰であって公道を自分のサーキットだと勘違いしてる節がある。




人の運転に対してはとやかく言うが、自分の運転に口出されたら途端に切れる怖い人種なのだ。




私の経験上、こういう人種に対しては黙ってるのが一番で、褒めたらますます調子に乗るし、逆に注意めいた助言などするようなものなら矛先が途端にこちらに向いて厄介このうえない。




ここは一つ、豹変ドライバーの相手は妻に任せておいて自分は電気屋での立ち回り方でも考えておくのが得策ってもんだと私は思うのだった。






「あぁ、イライラする。ねぇ、貴子。少し大回りになるけど道変えるわね」


 




ナオちゃんは、そう言うとクラクションを軽く鳴らしながら前方にあるT字路を右折して更に道幅の狭い道に入っていった。





























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