「またね、大好き」
万場明生
「またね、大好き」
朝部屋で寝ていた俺は慌ただしい音で目が覚めた。しばらくすると、母さんが部屋のドアを何の躊躇もなく開け、叔母さんが連れてきた8歳のいとこ、湊君の面倒を言い渡された。なんでも母と叔母は葬式に行くためもう家を出るらしい。というのも俺の母の母の兄が急に亡くなったからだそうだ。
僕は来たことの無い部屋で母を見送った。横にはお兄さんがいた。お兄さんは自分の名前と自分が大学生だということを僕に言った。あと、一生懸命僕とお兄さんの関係や、死んだおじいさんのことを伝えようとしていたがよく分からなかった。お兄さんのことは今まで顔ぐらいしか知らなかった。でも、話す姿を見ていたら、悪い人ではないと思った。
湊君はテーブルの椅子に座って持ってきた本を読んでいた。俺が勧めたからだ。俺は向かいに座り、冷蔵庫に残っていたアロエヨーグルトを朝ごはんに食べた。湊君もヨーグルトを食べるかと聞いたが、首を横に振られた。それから、テレビを見るかとも聞いたが首を横にふられた。
お兄さんは僕に何度か質問をしたあと、スマホをいじっていたが、急に
「奏君はお昼何が食べたい?」
と聞いてきた。
「何でも大丈夫」
と僕は言った。お兄さんは
「唐揚げでもラーメンでも好きなもの何でもいいんだよ」
などと僕が食べたいものをどうしても聞き出したいみたいに色々言ってきた。でも、食べたいものを言ったら思っていたのとちょっと違うのが出てきても喜ばないといけないから嫌だった。僕はお兄さんが諦めるのを待った。なのに、お兄さんは諦めなかった。お兄さんは僕の本の表紙の絵を指して
「オムライスどうかな?」
と言った。僕は
「オムライスでいい」
と言った。ちょっともうめんどくさかったのと、でも、本に出てきたオムライスに興味があった。
俺はオムライスをまともに作ったことはなかった。だから、とりあえず、スマホで調べながら作ることにした。湊君も一緒に作る?と聞くと意外にも頷いた。料理は普段手伝うわけじゃないらしいけど、俺がこのぐらいかな?と聞くと、
「もうちょっと」
とか言ってくれた。料理なんてダルいだけだと思っていたけど、今日の料理は楽しかった。
お兄さんは料理が上手いわけじゃなかった。でも、僕が卵を割ってみたいというと割らしてくれた。卵の殻が入っても、頑張って取り出してくれた。結局、オムライスの卵はつるんとしたやつにならなくて、しわしわになった。だけど、お兄さんはごめんと言いつつ笑っていた。味は普通だったけれど、何より楽しかった。
俺は湊君とソファーに2人で座り、テレビを見た。湊君にテレビを見ようと言ったときはまた聞いてしまったと思ったのに、意外にも
「うん」
と言われて正直びっくりした。
僕はこうやってボーとテレビを見るのは初めてでなんだか不思議だった。テレビはおもしろくなかったけれど、お兄さんが嬉しそうにしていて良かったと思った。
しばらくテレビを見ていたら「いしや~きーいも おいもー」と焼き芋屋さんが来る音がした。湊君を見ると眠っていた。そっおと奏君のそばを離れ、外に出た。俺はなぜか、湊君のために焼き芋を買おうとすぐに決心していた。俺は焼き芋をこうして買うのが初めてだった。
僕が目を覚ますと、となりでお兄さんのスマホが鳴っていた。横にいたお兄さんがいなくて、僕はお兄さんを探した。玄関の方で音がして、スマホを持って玄関に走っていくと、お兄さんが茶色の袋を持って立っていた。お兄さんはスマホを受け取り、少しやり取りをした後、もうすぐ僕のお母さんが帰ってくると僕に言った。
俺は帰る用意をした湊君を連れて、外に出た。すると、ちょうど、母さんたちの乗った車が俺の家の前に止まった。そして、叔母さんが降りてきた。
「焼き芋、いらなかったら、お父さんかお母さんにあげてくれるかな」
俺は焼き芋の入った袋を手渡した。
湊君はこくりと頷き、小さい声で
「ありがと」
と顔を上げて、でも目合わせずに言った。俺は手を振って
「またな、バイバイ」
と言った。湊君は手を振ろうとしたが、小さな片手で袋を支えるのは無理だったようだ。湊君はうつむいて
「またね………大好き…」
と言った。
「焼き芋好きだった?それは良かった。」
と俺は言った。
湊君は、袋を持って階段を一段一段と下りて叔母さんの方に向かっていく。
僕は階段を降りながら、言いたかったことがうまく伝わらなかったと思った。だけど、あんまりモタモタしていたら母さんに怒られるかもしれないし、別にお兄さんにはもう会わないかもしれないからもういいやと思った。
湊君は、階段の途中で立ち止まって、階段またを登ってきた。俺は不思議に思った。すると、俺の方を見て、
「楽しかった。………お兄さんのこと大好きだよ。」
と、今までで一番大きな声で言った。
「またね、大好き」 万場明生 @Manba-mei
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