第一章 生徒会長誕生編

第1話 編入してきていきなり生徒会長に任命された件。

  「せ、生徒会長!? 編入生へんにゅうせいの私が?」

「はい。私立大炭寺学園院しりつおおたんじがくえんいん 校則第4条・『学院の生徒会長には大炭寺家おおたんじけの者が中等部ちゅうとうぶあるいは高等部こうとうぶに在籍している場合、学園長がくえんちょうが生徒会長に任命する』ですからね。断るのは諦めてください。大炭寺麻由実おおたんじまゆみさん。」

「そんなあ~…。と、いうことは、おじいちゃん…いや、理事長りじちょうも承認したってことですか…?」

「ええ。そういうことなので、後で行われる始業式と明日の入学式、挨拶あいさつを考えておいて下さいね。」

「はあ…、分かりました。失礼します、学園長がくえんちょう。」

そう言って私は学園長室がくえんちょうしつを後にした。


 「はあ~~~…。なんでこうなったかな。こんなの聞いてないっての。」

不機嫌そうな顔付きで歩きながら私は祖父にしてこの学院の理事長・『大炭寺玄冬おおたんじげんとう』と話をするため、理事長室りじちょうしつに向かった。おじいちゃんは昔からそうだった。突然何か思いついては私や私の兄弟姉妹達きょうだいしまいたち、それに従姉弟達いとこたちに任せたり押し付けたりしてきたから、たまには振り回される身にもなって欲しいんだよね。だから、ガツンと一発文句いっぱつもんく言ってやらないとね!

 そう思いながら歩いていたら、廊下の突き当たりを曲がろうとしたら反対側から歩いてきた人物とぶつかって尻餅しりもちをついてしまった。

「いたた…。ごめんなさい、ちょっと考え事してたから前みて歩いてなくて…。なんか運んでたみたいでばらまいちゃったけど、大丈夫?」

「ああ、大丈夫。俺の方こそ前見えないくらい始業式で使う小道具運んでたからな。気にするな。後、回収するの手伝ってもらって悪いな。」

「いいって。こういう時はお互い様でしょ? 気にしないで。はい、これで全部かな。」

「ありがと・・・って、君もしかして麻由実ちゃんじゃないか?」

「えっ? 名乗ってないのにどうして私の名前を…。」

「おいおい。久しぶりだっていうのに俺のこと忘れたのかよ…。ほら、俺だよ。君の幼馴染おさななじみたくみだよ。」

「ああ、思い出した! 小学生の頃、よく近くの公園で一緒に遊んでた匠くん! いや~、なつかしいな~。まさか同じ学校なんて知らなかったよ。」

「それはこっちの台詞せりふだよ。会うのは大体何年だいたいなんねんぶりだろうな?」

「さあね。そんなのいちいち覚えてないよ。あっ、そうだ。これから私、おじいちゃんに文句言いに行くんだけど、一緒に来てくれないかな?」

「おじいちゃんって、理事長りじちょうか?」

「うん。ほら、匠くんもしってるでしょ? うちのおじいちゃんの性格…。」

私は今考えてもおぞましいと思いながら嫌な顔で匠くんに言った。

「そういや、麻由実ちゃんってあの人苦手だったな。忘れてた…。分かった。そういうことなら同行するよ。」

「ほ、ほんと!? ありがと~、匠くん! じゃっ、理事長室いこっか!」

「ああ!」

こうして私は思わぬ所で再会した匠くんと共に理事長室へと向かった。


 理事長室に到着した私達は、ドアをノックして中に入っていった。

「…おじいちゃん? 麻由実だけど、入っていい?」

「もちろんじゃよ、麻由ちゃん。入っとくれ。」

私達は理事長室へと足を踏み入れた。

 「やあ、麻由ちゃん。しばらくお互いに忙しかったから会うのは久しぶりじゃな。」

「…そうだね、おじいちゃん。…挨拶はこのくらいにして、本題に入ってもいい?」

「う、うむ…。その前に、匠くん、ちょっとこっちに。」

「? 分かりました。」

匠くんはおじいちゃんに言われて近くに行き、二人で何やらコソコソ話始めた。

 

 (…なぜ麻由ちゃんは機嫌きげんが悪いのじゃ?)

(ここに来る移動中に聞いたんですけど、麻由実ちゃん、編入してきて早々、生徒会長に任命されたとかで、不満らしくて…。)

(ああ~、その件か。わしも編入してきたばかりの麻由ちゃんを生徒会長にするのはどうかと思ったのじゃが、決まりじゃから仕方なくてのお…。おまけに、麻由ちゃんの上の二人はそもそもうちの学院に通ってないから、順番的じゅんばんてきには麻由ちゃんしかいないんじゃよ…。)

(そうなんですか…。そういうことなら、俺にいい考えがあります。これなら、麻由実ちゃんが生徒会長になるのやる気になってくれるかも知れません。)

(ほ、本当か!? 匠くん!)

(はい! ちょっとお耳を拝借しても…?)

(もちろんじゃ!で、その考えというのは?)

(それはですね…、ゴニョゴニョ…。)

(ふむふむ…。おお! なるほどのお。しかし、それだと君が…。)

(いいんですよ、気にしないで下さい。麻由実ちゃんのことだし、この学院にがないだろうし…。)

(匠くん…。すまないのお…。いつも協力してもらって。)

あやまらないで下さいよ。しばらく会っていなかったとはいえ、幼馴染ですから。)

おじいちゃんとの話が終わった匠くんは私の元に戻ってきた。


 「…おじいちゃんとの秘密のヒソヒソ話は終わったみたいだね、匠くん?」

「ま、まあな。(麻由実ちゃんの視線しせんいたい…。)」

一言ひとこと咳払せきばらいが終わった後、おじいちゃんがはなしはじめた。

「匠くんから話は聞かせてもらったぞ、麻由ちゃん。」

「…そうみたいだね。なんか2人でコソコソ話してたし。…学園長先生が言ってたけど、校則にあんなのがあったなんて知らなかったよ。私、生徒会長なんてする気ないよ。ただでさえ芸能活動にがあるから忙しいの知ってるでしょ?だから、生徒会長なんてやる気ないから。」

少しイライラした口調で、私はおじいちゃんに異義を申し立てる。そんなおじいちゃんからの返答は、少し私が予想してなかった回答だった。

「…そう言うだろうとさっき匠くんが言っとたぞ。そこで匠くんから提案があるそうじゃよ。」

「へ…?」

さっき、匠くんがおじいちゃんとコソコソ話してた内容はもしかしてこのことなのではないだろうか。そんなことを思っていたら匠くんは私にこう言った。


 「…麻由実ちゃん。生徒会、俺も入るから一緒にやろう。…な?」

「…はい?」

一瞬いっしゅん耳をうたがったけど、匠くんが私に言ったその言葉は嘘偽うそいつわりない彼の本心だった。昔から匠くんは、私が嫌がることや、やりたくないことがあると、いつも付き合ってくれた。たまにこんなことを思ってた。『いつも私に付き合ってくれてるから無理させているのではないか?』と。

彼の今、私に向けている真剣な表情は、私を信じているこそできる顔だ。面倒事や退屈なことが嫌いな私の無茶ぶりにも、匠くんならなんでも答えてくれるはず。そんな彼の誘いを無下なんてできない。なら、私が下す決断は1つだけだ。

 「…分かった、匠くん。君が手伝ってくれるなら、生徒会長の仕事、けてもいいかな。」

「麻由実ちゃん! よかった、やる気になってくれて。」

「まあね。私のできる範囲はんい頑張がんばっていけたらいいかな。」

「そっか。麻由実ちゃんはそうこなくちゃね。」

私達は互いに笑いあった。

「ふう。麻由ちゃんがやる気になってくれてよかったわい。もし断られてたらこの話はかがりちゃんに回す予定じゃったからのお。」

おじいちゃんは私が生徒会長を快諾かいだくしたことで少し、ほっとしたようだ。

「って、おじいちゃん、私が断ってたら篝にもこの話回す予定だったんだ…。でも、あの子は今確かの修行中だよね。…なるほど? それで少ししつこかったんだね。」

「う…。もうその話はいいじゃろ、麻由ちゃん。ところでそろそろ始業式始まるから挨拶、考えなくていいのかい?」

「挨拶? そういえば、学園長先生もそんなこと言ってたような…。」

「麻由実ちゃん、大変だ! 始業式まであと10分もないよ! 早く移動いどうしないと。俺もこの小道具持って行かないとだし。」

「っへ? もうそんな時間? だったら早く移動しないとね。と、いうことだから、おじいちゃん。私達、行くね。」

そう言って私達は、急いで始業式に向かうのだった。


 最後は少しあわただしくなってしまったけど、編入してきたばかりの私が校則がなんとかという理由で生徒会長に任命されるなんて、まだ少し信じられない。普通、生徒会長は選挙で決まると思うけど、この学校、もしかしたらもしかしなくても私が思っているより変な所なのかも知れない。

 でも、新たな出会いもあるかもだし、少しくらい期待きたいしてもいいのかも知れない。そんなことを考えていた矢先、この後、私と匠くんの前に新たなる苦難くなんかべふさがることになるのだが、それは次に持ち越しかもしれない…。


                             To be continued…

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