3 優しい放送局 音楽放送開始

 サラはとっても優しい女の子でした。

 それに、とても勇気のある女の子でした。

(それから、とても綺麗な女の子でした)

 ずっと、(目覚めた)初めて見る生きている人間の女の子のサラを見て、部屋の奥に隠れて、びくびくしているベルにも、(くすくすと楽しそうに笑いながら)とても優しくしてくれました。

 それからすぐに、二人はお友達になりました。(サラはベルに「助けてくれてどうもありがとう。ベル」と言って、ほっぺにキスをしてくれました)

 サラと出会えたことは本当に嬉しかったし、幸せでした。

 でも、サラはベルの優しい放送局の放送を聞いて、この緑の街までやってきたのではありませんでした。

 では、なぜやってきたのかというと、それもわかりませんでした。

 なぜなら、サラは『記憶を失っていた』からでした。


 優しい放送局 音楽放送開始


 音楽を放送しようと言い出したのは、サラでした。

 ベルは毎日、優しい放送局から世界に向かって、放送をしていましたが、自分がマイクの前で生きている人間や、動いているロボットたちに場所を伝えていただけだったので、サラが音楽をかけてみませんか? ベル。と言ったときに、本当にびっくりしました。

「せっかく、この優しい放送局にはこんなにもたくさんの音楽が残っているのですから、みんなに聞いてもらわないと、もったいないですよ。ベル」とにっこりと笑ってサラは言いました。

 ベルは最初、サラの言っていることの意味があまりよくわかりませんでした。

 でも、実際に音楽をためしにかけてみると、ベルの世界はたくさんの色で彩られたようになって、花が咲き乱れるような、いろんな感情が溢れて出してくるような、そんな不思議な感じがたくさんしました。

 ベルは音楽を聞いて、本当にもったいないと思いました。

 その日から、優しい放送局では、ベルとサラが二人で一緒にマイクの前で世界に向かって放送をしながら、優しい放送局の保管室にずっと眠ったままだったいろんな音楽を一時間だけ(本当は一日中音楽をかけていたかったのだけど、エネルギーのことを考えると、節約はしなくてはいけないので、二人で話し合って、一時間に決めました)放送する、ということをしました。

 それは、ベルがこの世界に生まれてから、今までで、一番、幸せな時間でした。

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