百合アンドロイド二人がイチャイチャしながら企業の支配をブチ壊す

三坂鳴

第1章 白銀に照らされる序曲

第1話 闇夜に交わす視線

 ドローンの警報音がビル街に木霊し、赤いレーザーが縦横に走り抜ける。夜明け前の空は深い闇で満たされ、まばらに点滅する街灯が破壊された廃墟をかすかに照らしていた。

建物の谷間を縫うように、アルテミシアとエイダが息を詰めながら移動する。


「敵ドローン、こちらに集まってきてる。アルテミシア、回り込めそう?」

「可能だ。エイダ、今のうちにハッキングで防衛網を乱せるか?」


 アルテミシアは白銀の髪を揺らしながら低く身をかがめ、目の前のビル壁に隙間を見つけて飛び移る。

軽やかな着地音とともに、ふたたび闇に身を沈めて敵の位置を探る。

エイダは金色の瞳を鋭く光らせ、携帯端末を素早く操作していた。


「行ける。ほんの数秒だけ通信を偽装するから、その間に大部分のドローンを一時的に沈黙させられると思う」

「助かる。エイダが妨害してくれたら、私が正面を引き受ける」


 二人が交わす言葉は短いが、その調子には互いへの信頼が滲んでいる。

──こんな危険な状況なのに、エイダが隣にいるだけで心が落ち着く。これが「愛」というやつか……

(アルテミシアは胸の奥でそう感じながら、エイダへ強い信頼を寄せていた。)


 恋人同士であることを周囲に隠しきれないほど、連携の呼吸がぴたりと合っているのだ。

エイダがショートカットの先端を指で払ってから端末を振りかざすと、無数のドローンが一斉に軌道を乱し始める。


「いまだ、アルテミシア!」

「わかった。エイダ、支援は任せる」


 瞬間、アルテミシアの長い脚がビルの壁を蹴り、加速したスライディングでドローン群の中心を突破する。

金属光沢の機体がバラバラに動きを外し、鋭いレーザーが明後日の方向へ散っていく。

わずかに正常稼働を続けるドローンがアルテミシアに照準を合わせるが、彼女の反応速度がそれを許さない。


「一対多でも、あなたなら負けないってわかってる!」

「エイダが背後にいるから、私は大丈夫だ」


 アルテミシアは白銀の髪をひとつに束ね直し、滑らかな身のこなしでドローンの頭上を飛び越える。

手にした近接武器が一閃し、装甲を断ち切る火花が闇夜にまばゆく散った。

ドローンが次々に墜落し、周囲に鈍い爆音が響きわたる。


 奥の路地から、新たに数体のアンドロイド兵が駆けつけてくる。

彼らは赤いセンサーを光らせ、アルテミシアを取り囲むように狙撃体勢をとる。

エイダは「まずい、数が多い」と端末を握りしめて歯を食いしばった。


「少し粘って、アルテミシア! もう少しで制御ルートに割り込める……!」

「焦らないでいい。あなたのハッキングを信じる。……私に構わずやってくれ」


 アルテミシアがビルの壁面に足をかけ、垂直に二段ジャンプを決めるように建造物の高所へ一気に登っていく。

そこから宙返りの体勢で着地しながら、兵たちの銃口を混乱させる。

一発、二発とレーザーが掠めても、アルテミシアは顔色ひとつ変えずに突き進む。


「大丈夫……あなたを、絶対に倒れさせない!」

「私もエイダを守る……!」


 エイダの金色の瞳が一瞬だけ潤みながら光り、端末へ高速入力を行う。

すると、アンドロイド兵たちの動きがパタリと数秒間だけ止まり、まるで糸が切れた人形のように硬直する。

そこへアルテミシアの鋭い一撃が叩き込まれ、兵たちは一瞬で膝を崩して動かなくなった。


 路地がかすかな静寂に包まれ、風の音が耳を掠める。

アルテミシアは荒い呼吸を整えながらエイダに駆け寄り、彼女の肩を支えるように抱き寄せた。


「よくやった。何とも言えない連携だったな」

「アルテミシアこそ……よくあの数を相手にしたね。危ない場面もあったのに」


 エイダはショートカットの髪先を揺らしながら、アルテミシアの胸元に顔をうずめる。

互いに生き延びた安堵と、恋人同士だからこその深い想いがそこにあった。


「あなたが私を信じてくれたから、頑張れた。エイダがいないと、こんな任務は遂行できない」

「私も……どんな激戦だって、あなたの背中があるから踏み込めるの」


 しばしの抱擁ののち、二人は顔を見合わせて微笑む。

そこから少し離れたビルの屋上に、まだ稼働を続ける無人兵器の残骸が見えていた。

エイダが金色の瞳でそれを見つめ、アルテミシアに視線を戻す。


「もう一台、ドローンが残ってるね。動いてないけど油断は禁物……行こうか」

「ああ。エイダ、周囲の警戒も頼むよ。ここを切り抜けて、次のポイントへ急ぐ」


 二人は互いの手を軽く触れ合わせ、夜明け前のビル街を駆け抜ける。

そして、彼女たちの戦いが一段落し、夜明けの光が空を染め始めた頃――次に舞台となるのは、ビルの屋上だった。

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