転生王子の王国再建記【改訂版】

schwarz

第01話 転生王子と目覚め

 耳を裂くような轟音が全身を貫いた。


 金属が軋み、砕け散り、まるで世界、そのものが潰れ崩れていくかのような激しい衝撃が襲いかかる。


 何かに物凄い猛烈な力で弾き飛ばされた。

 天地が逆様さかさまに引っくり返り、視界はぐちゃぐちゃに掻き乱され、全身が宙を舞う。

 

 まるで世界から重力が一瞬だけ、消え去ったかのような浮遊感――と、その直後に押し潰されるような激痛が全身を貫いた。


 冷たいアスファルトに叩きつけられ、鈍い衝撃が脳裏を揺らす。


 意識は霞み、目は開いているはずなのに世界は霧の中のようにぼやけていた。

 脳の奥深くで脈打つ痛みが、鼓動に合わせて鋭さを増し、また静かに引いていく。


 血の味が口の中に広がる。

 動かそうとする手足は、まるで他人のもののように言うことを聞かない。


 耳鳴りか、あるいは車の警報音か――遠くで誰かが叫ぶ声が聞こえた。


 ――それは音か、声か、判別できない。

 途切れ途切れの言葉が、まるで水の中にいるように歪みながら遠ざかっていく。


「ぉい……だい……ぶか゚……?」

「だ……か……きゅ……ゅ……しゃ゙……っ!」


 言葉は意味を成さず、ただ波のように薄れていった。

 音は霞み、意識も輪郭を失いながら薄れていく。

 

 肌に触れる空気はざらつき、意識の輪郭がどんどんぼやけていく。


 ……なにが、起きた?

 全然、理解が追いつかない。


 冷たい。眠い。だけど……寝てはいけないような気がする。

 呼吸が上手く出来ない。吸おうとするたび、胸の奥がギシギシと痛む。そして――ふと何かが切れる感覚とともに意識が深く沈んでいった。

 まるで水の底へ引きずり込まれるように。


 ――ああ、俺は……死ぬのか。


 ――――――――――――――――――


 ――暗闇。

 何も見えない。何も聞こえない。


 ただただ暗闇が地平線の向こうまで続いてる。と、急に、そんな完全な無の中――虚無の中に一筋の光が差し込んできた。


 唐突な、水底の闇を裂くような一筋の月光――。

 ――静かで温かい光。


 その輝きに引き寄せられるように意識がゆっくりと浮上しはじめる。

 ――最初は、ぼんやりとした温もりだけだったが次第に身体の感覚が戻り始めた。頭を締めつけていた鈍い痛みは消え、不協和音のような違和感も静まる。


 代わりに広がるのは心地よい静けさと、どこか懐かしい温かさだった。


 ……ここは……どこだ?病院か?


 ゆっくりと目を開くと、見知らぬ天井が視界に入った。 

 古びた石材で作られたそれは、淡い光を帯び、ところどころに年季の入った染みが広がっている。


 ぼやけた視界の中で、少しずつ現実感が戻ってくる。


 視線を巡らせると、粗い石壁が目に映り、小さな窓から漏れる微かな光彩が薄暗い部屋を照らしていた。


 ひんやりとした空気が肌を撫で、石壁の冷たさが現実感を際立たせる。


「…………」


 部屋の中には最低限の家具しかなかった。

 隅には木製の机と椅子が置かれ、机の上には埃を被った蝋燭が一本。

 芯の先端は黒ずみ、長らく灯されていないことを物語っていた。


 まるで別の世界に迷い込んだような感覚が胸の奥で膨らんでいく。


 ――病院じゃない?

 ここは……どこなんだ?


 くっ、全身が重い。

 手足の感覚すらもはっきりしない。

 

 頭を動かそうとするがまるで思ったように動かせない。

 混乱しながら試しに自分の手を顔の前にかざす。


 そこにあったのは――小さく、ぷにっとした赤ん坊の手。


 ……なんだこれ?


 声を上げようとするが、喉から漏れたのはか細く、赤ん坊のような声だった。

 驚きと困惑が交錯する中、視界の上に何かが影を落とした。


 ……人?


 ぼやけた視界の向こうに誰かがこちらを覗き込んでいるのが分かる。

 ――女性だ。美少女……いや美女と言って良いだろう。


 看護師さん?


 金色の髪が、窓から差し込む光を受けて柔らかく揺れる。

 瞳は淡い碧色。優しげな表情が、穏やかに微笑んでいる。


 碧色の瞳が柔らかく揺れ、何かを語りかけるように唇が動く。


「―――・・――・・・・」


 声は聞こえる。しかし、意味が分からない。

 日本語じゃない。外国語?


 困惑が広がる。

 自分の状況すら理解できていないのに聞こえてくる言葉すら未知のもの。

 

 ――瞬間、その女性の腕がそっと俺を抱き上げた。

 温かく、なぜか安堵した。

 

 理性とは別の場所で彼女の存在を受け入れようとしている自分がいた。


 ――しかし、なんて力だ?成人男性を軽々と持ち上げるなんて!?


 視界が揺れる。彼女の背後、もう一つの影があった。

 黒い髪、黒い目と鋭い眼差しを持つ男。


 堂々とした立ち姿には威厳があり、厳格な雰囲気をまとっている。

 ゆっくりと口を開くが、


「――・・・・―――」


 彼の声もまた理解できなかった。やはり分からない。


 ――しかし、その声は低く、落ち着いていた。

 何かを語りかけているのだろうが理解できる言葉はひとつもない。


 困惑していると、男の手がそっと額に触れる。


 ……温かい。


 気づけば、無意識にその手の温もりに身を委ねていた。

 何も分からない。だけど、ここが自分のいるべき場所であるような気がした。 


 ――――――――――――――――――


 1ヶ月の月日が流れた。


 信じがたいが、ようやく確信できた。

 どうやら俺は生まれ変わったらしい。


 本当に信じられないことだが……本当に赤ちゃんになったのだ。

 赤ちゃんになってしまったのである。


 異世界転生。

 ――その事実が、ようやく飲み込めた。

 どうして前世の記憶が残っているのか分からないが、困ることもない。

 

 記憶を残しての生まれ変わり。

 誰もが一度は、そんなあり得ない妄想をする。


 目が覚め、最初に見た男女が俺の両親らしい。

 年齢は二十代後半といった所だろうか。


 最初から気付いていたが、どうやらここは日本ではないらしい。

 言語も違う。両親の顔立ちも日本人の顔じゃなかった。服装もなんだか違う。


 家電製品らしきものも見当たらない。食器や家具も粗末な木製だ。

 明かりも電球等ではなく、蝋燭やカンテラが主流のようだ。


 確かにやり直したいと、思った事はあったのだが、まさかこんな形で転生するとは思わなかった。


 はぁ、考えても仕方がない。事故で死んだはずの俺が新たな人生を歩むチャンスを得たんだ。


 だから今回こそ――。


 俺は優雅な悠々自適ライフを送ろうと思う。


 ――――――――――――――――――

 

 評価 まぁ読める   ☆

    まぁまぁ面白い ☆☆


    面白い     ☆☆☆


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