第3話 自分

「来週から私は何者なんだろうね」

町に沈んでいく夕日を見ながら先輩が呟いた

「どういうことですか?」

「高校卒業したら高校生ではないでしょう?けれど大学に入学していないのだから大学生でもない」

「あぁー、そういう事ですか、確かにどうなんでしょうね」

「その期間に私が事件を起こした場合、ニュースの報道では18歳無職女性って報道されるのかな?」

「そんな報道聞いたことないですけど…でも一応大学には受かっているんですから大学生になるんじゃないですか?」

「じゃあ受かっていなかったらどうなるの?」

「それは……どうなんでしょう」


幼稚園・保育園から始まり小中高と、物心ついてから肩書が無かったことなんてなかった。学生なんだから部活や勉強をしていればそれだけでよかった。そう考えると、自分も肩書がなくなる日が来たら不安になるんだろうか。

「肩書がなくなったとき私は私らしく生きられるのだろうか、それとも肩書に見合った行動を自然と取ってしまっていて、実際は肩書がなくなったとき本来の自分が表に出るのかな」

「なんだか肩書、肩書言いすぎてよくわからなくなってきましたけど……」

「けど……?」

「肩書なんてその人を知らない第三者が区別するために使うものでしょう?先輩を知っている人からしたら先輩は先輩ですよ」

その言葉に先輩が少しだけ納得した表情を見せる

「じゃあ君から見て私はどんな先輩だった?」

先輩は少しいたずらな笑みを浮かべる

「先輩は……ちょっとやめましょうよ、恥ずかしくなってきた」

俺は先輩の事を考えると、耳が熱くなるのを感じ話を中断する。

「なに、恥ずかしい事をいおうとしてたの?」

先輩はくつくつと笑いながら言った。

「そんなことより明日運転免許の試験なんでしょ?大丈夫なんですか?」

「大丈夫、合格は確実、君は私のドライビングテクニックに驚愕しないよう心構えをしておきなさい」

「ヘルメットの準備は出来ていますよ、それでいつ連れて行ってくれるんですか?」

「土日よ」

「土日?今週ですか?しかも二日も?」

「この近くにだって行ってみたいけど、なかなか行けなかったって場所あるでしょ?」

「まあ、確かに…」

「そういう所を回ってみるのよ、途中で買い食いなんかしちゃったりして」

先輩とのドライブを想像し自然と笑みがこぼれる

「楽しそうですね」

「楽しいわよ」

僕たちは、沈む夕日を背にして家路についた。

先輩にとって高校生最後の休日。楽しみなはずなのに、なぜか少し切なくなる。

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