初恋の先輩がバツイチ・子持ちで戻ってきた!

八幡ヒビキ

いつもの夢 高1のバレンタインデー

いつもの夢 高1のバレンタインデー

 センパイがいるかどうかも分からないのに、学校にチョコを持ってきた私も私だが、受験シーズンまっただ中の3年生がどうして登校してきているのだろう。もしかしてチョコを期待しているのかも、なんて、センパイはいっぱい貰えそうだし、それはあるかも。

 4時限目の教室移動の最中、高校入学以来、一緒に風紀委員会の活動をしてきた本成寺センパイが自習室にいるのを発見し、私のテンションは嫌が負うにも上った。いろいろ望み薄でもチョコを持って来て本当に良かった。

 私は午前中の授業が終わって昼休みになるやいなや、カバンからチョコの包みを取り出し、この時期、主に3年生が使っている自習室へと一目散に走る。

 もしかして帰ってしまったかもしれないし、ご飯を食べに行ったかもしれない。そうしたらもう渡せる機会はおそらくもうないだろう。

 お願い! まだいてください! センパイ!

 私がそう強く願いながら息を弾ませつつ扉を開けると、自習室の中は無人だった。

「遅かった……」

 残念。私はがっくりと肩を落とす。

「何が遅かったんだい?」

「センパイ!」

 トイレにでも行っていたのだろうか。振り返るとハンカチで手を拭いているセンパイがいた。ああ。まだいてくれて本当に良かった! センパイは私を見てきょとんとした顔をしていた。私は彼に早口で言い放つ。

「今日が何の日だか知ってますよね?! はい、チョコレートです!」

 私は彼の顔を見られず、あてずっぽうでチョコの包みを彼に押しつける。恥ずかし過ぎて正気ではとてもいられない。

「あ、ありがとう」

 戸惑ったような彼の声が聞こえる。受け取って貰えたようだ。やった!

「じゃあ! 受験、がんばってください!」

 私は叫び、真っ赤になってドタドタと大きな足音を立てて、彼の前から一目散に逃げ出した。


☆ ☆ ☆


 スマホのアラームで目を覚まし、私は嘆く。

 何度この夢を見ればいいんだろう。チョコをあげられたりあげられなかったりするが、現実はだいたい今回みたいな感じだった。

 あのとき逃げなければ良かった。そうしたら別の人生があったかもしれない。

 いつものように嘆いても――もう昔の話だ。どうにもならない。

 そう、これは15年も前の、まだ私が女子高生だった頃の、初恋の思い出。

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