悪役令嬢、スキル創造。世界改変。断絶。婚約破棄。処刑待ったなし

世界樹

崩れゆく現実

第1話悪役令嬢、改変する


 目の前には、金髪碧眼の美しい王子様。そして、その隣には純白のドレスを纏った愛らしい少女――。


 彼らは揃って、私に向かって宣告する。


「アリシア・フォン・ルクレティア! 貴様の悪行はもはや見過ごせん!」

「そうです! アリシア様、あなたは私をいじめ続けたのです!」


 ……ああ、来たわね。この展開。


 私は王子に婚約破棄され、悪役令嬢として処刑される。

 それが、この乙女ゲーム「エターナル・グロリア」における悪役令嬢ルートの最終イベント。


 だが――


(そんな未来、私は全力で回避させていただきますわ)


 だって、私は前世の記憶を持つ転生者。

 そして何より、この世界の**最強スキル「スキル創造(スキルクリエイト)」**を手にしているのだから。


 私は静かに、スキル一覧を開く。

 そこには、私がこっそり作り上げた数百種類の異常なスキルが並んでいた。


 たとえば――

・「物理法則無視(フルバースト)」:あらゆる攻撃を無効化し、攻撃時に絶対クリティカル。

・「時空の帳(パーフェクト・ディメンション)」:空間転移、時間操作、全て自由自在。

・「運命改変(ストーリーリライト)」:物語そのものを書き換える。


 ……正直、もうゲームバランスなんて存在しない。


 とはいえ、私はこの力を無駄遣いするつもりはない。

 できる限り、「悪役令嬢」として目立たず、穏やかな学園生活を送りたい。


 だからこそ、私は演技する。


「王子様、私の罪をお許しください……」


 悲しげに微笑み、儚げな演技をする私。

 だが、次の瞬間――


「ふざけるな!」


 突如、後ろから誰かに抱きしめられた。


「アリシアを責めるな……! 彼女こそが、この世界で最も尊い存在なのだから!」


 振り向けば、そこには銀髪の美しい青年――勇者フェリクスがいた。


(……え? ちょっと待って、勇者がなぜ私を庇うの?)


 予定調和のイベントが、音を立てて崩れ去る。


 世界が軋む。


 視界がぐにゃりと歪む。声が遅れて届く。王子の表情が滲み、ヒロインの輪郭がぶれる。


 スキル「運命改変(ストーリーリライト)」の効果。


 この瞬間、世界は書き換えられる。


――「貴様の悪行は……」


 文字が、音が、崩れる。


――「貴様の悪行は……貴様の悪行は……アリシア様?」


 ヒロインの瞳が、白濁する。


 王子の姿が、ざらついた静止画のように揺れ、次の瞬間、完全に崩壊した。


 世界の設定が、一瞬で変わる。


「アリシア様! そんな、私を助けてくださるのですか?」


 ヒロインは、涙を浮かべながら私の手を取る。


 王子はただ、無表情のまま消えていく。


 背景が、ノイズのように歪む。


 まるでページをめくるように、世界が塗り替えられる。


 私は、微笑んだ。


「……ええ、私に任せなさい」


 これが、私の「スキル創造」の力。


 悪役令嬢として破滅する未来?


 そんなもの、この手でいくらでも書き換えてあげるわ。


――だが、その時、私はまだ知らなかった。


 一度改変した世界は、決して元には戻らないことを。


(続く)

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