いじめをして後悔している
.六条河原おにびんびn
第1話
戦争ってあるじゃないですか。戦争ってあるじゃないですかってはじめて、「無いです」って言われたらそれまでなんですけど……
戦争はしちゃダメっていうじゃないですか。それでその理由がいくつか挙がると思うんですけど、ねぇ、もし、”完全に、100
えっと、ボクは戦争の話しに来たんじゃないんです。
ボクの知り合いが、「いじめ報復屋」っていう訳分からんことやってて。ほとんどお金にならないと思いますよ。出費はありますけどね。しかも依頼性じゃないっていう。
ボク等に”おまじない”をかけて、時には教員に、時には会社員に、時にはママ友というかパパ友というかそんなのになったり。見事なテンプテーションでね。探偵の真似事です、私怨の。保護猫ボランティアみたいな感じだと思いますよ。人生、意外と長いですね。特に傷を負っちまった身だとすると。
で、なんでこんなことになったかって取材なんでしたっけね。
ええ、人死にが出たんです。
ボク等って、いじめられる側って完全に固定されていて巻き込み型でまぁ、2人、3人くらいに増えるものだと思ってません?でもランダムだと思います。そら、属性ってのはあるかもしれませんけれど、じゃあ条件を変えてみたら?という話で。いかに、その条件に適合できるかの試練でしょうね。都会の強者というやつも、閉鎖的な地域に放り込んでみなさい。
田舎にとって、そこに3代住んだ程度じゃ結局よそ者ですからね。都会から来た連中にシステムを変えられちゃっちゃっちゃキレますよ。縄張り意識と言うものもありますからね。新しく家なんて建ててしまったら、懐かしき良き風景を変えたやつ、でもあるわけです。そこに経済を回してくれた恩恵ってものを思い出す隙もなく、ね。
つまりね、どんな強者でもいじめられる側になり得るんですよね。ま、いじめられ”やすさ”でいうと偏りはあると思いますけれどもね。やっぱり気の弱さや優しさは付け入る隙ですから。フリーライドしていい相手から、見下していい相手へと変わるわけですな。ああ、怖い、怖い。人の錯覚の変遷というやつは。
そして、自己嫌悪や後ろめたさ、罪悪感ってものにきっと人は耐えられないから、今度は自己正当化に走る。まったく人間らしい感情で、そうでない奴等のほうが
で、何の話でしたっけ。そう!今の時代はインターネットってやつがあるから便利ですね。晒しておけば特定され、炎上でき、人生を一発退場させられる。これを、狙ったんです、ボクの”友人”は。
で、まずは証拠を集めるわけです。どう証拠を集める?苦肉の策ですね。肉を切らせて骨を断つ、んでしたっけ?そのためにいじめを煽らなければならなかったし、放置もしなければならなかったわけです。
ま、ボクたちは頭から釣り竿を垂らし、目の前にあるエサのため同じところをぐるぐる走り回っている駄馬に過ぎないわけですが、別のルートにエサ場があると知れた途端に俄然、やる気も変わってくるわけですな。だから耐えられたのでしょう。耐えられたのでしょう?いいえ、耐えられませんでした。”自然な”いじめでなければならないのであれば、いじめ被害者に調査を知られてはなりません。いじめ加害者にもね。とりあえず、「いじめ報復屋」もとい「いじめ報復ボランティア」なんてものが介入した時点で、もうこれは仕組まれて干渉された「いじめ」ですよ。「やらせ」です。
昔、ドキュメンタリーを撮るという課題をやったことあるんですけど、それは「一人ぼっちの子に友達ができるまで」というテーマだったかな。結局友達ができたところで終わるんですけど、ボクはそのシナリオを作ったうえで、撮影を終えてから、これはカメラがあったからこその流れでしかないという感想を抱いてしまったんです。
つまり、「いじめ報復ボランティア」がすべきは証拠集め云々のためにいじめられて傷付き、トラウマを増やし、尊厳を傷付けられている人間をそこで救うことだと思いましたがね。
証拠をつきつけて?だからなんですか。炎上させ、特定させ、人生一発アウトさせるのが目標ならばそれは「自業自得」という責任の依拠を他人になすりつけたエンターテイメントでしかなく、それこそまさにいじめだと思うんですよね。
つまりいじめをやめさせることが目的ではなかった。「自業自得」「自己責任」なら自分には無関係、他者化できますからね。自分たちは「いじめている側ではない」という大義名分すらある。正義の棒は肉竿を扱くように、あるいは肉粒を捏ね回すようにとてもキモチイイですからね。
明日は我が身として怯える傍観者のほうがまだ良心的で善民だというものですよ。ノーリスクで人をぶん殴るのはとても気持ちがいいんです!これが本能なのだから仕方がないんです!本能で女を強姦し、本能でより良い男を選ぶ!何が悪い!本能なので腹が減れば八百屋に並ぶ野菜を食ってもいい!本能なので運転中に眠ってしまってもいい!本能なので面接中に失禁し脱糞しても構わない!仕方がない!
ま、この人の世には教育というものがあるわけですが。道徳だとか倫理だとか、エチケットだとかマナーだとか常識だというものも。おそらく似て非なるものでしょうけれど。
人権ってあるじゃないですか。あれって何ですか。母ちゃんの産道からひり出された瞬間に自然発生するものですか。多分戦争がはじまったらすぐ消え失せそうな気もしますけど。お互い脅威にならない存在でいましょうね、っていう無言で暗黙的な契約だと思うんですけど、中学生・高校生って保護者もいますし、よっぽど頭のおかしな親でもなければ、あんまり衣食住困りませんもんね。
で、そのお互い脅威にならない、危害を加えないという契約を破った側の人間だから、何をしても構わないということなのかもしれませんね。あっはっは……
すみません、ちょっと疲れてしまって……
証拠は集めたんです。でも死にました。いじめに耐え切れず。首吊ってね。もっと早く、上手くやるべきでしたね、あの人は。こんなのは間違っているって、何度も言ったんですけど。
証拠を集めたって、全裸に剥かれて漏らしちゃってる証拠をどこに出せっていうんですか?ネットに流せって?
あの人も所詮、自分の正義性、私怨にキマっちゃってたんですよ。より過激な証拠というやつのために。何度かそれで人を救えた気になってるわけですからね。世直しの賞賛というやつは甘い毒なんですよ。
個人でやるべきことじゃないと思うんですよ。組織に訴えかける、その組織がダメならさらにそのうえ……だって私刑になっちゃうじゃないですか。ただでさえ世に出れば私刑の如き罵詈雑言が飛ぶ分けで。ボクもデジタルに毒されている側の人間だからでしょうか?
ンで、直近の、「いじめボランティア」が担当した件のいじめの被害者は死亡しましたけれども、証拠はインターネットの大海原に放流されたわけです。これはいつもどおりで、これもいつもどおりですけど、案の定、正義マンの両翼というやつに、加害者側の氏名、住所、親の仕事先も全部特定されました。
これ、めちゃくちゃ愉快なオチがあるんですけど、首吊って舌出して失禁しながら死んだいじめの被害者が完全なる無辜で無垢で純真極まりない善人だって思いました?
だとしたら甘いな~。ま、言いませんけど。だって面白いでしょう、そのほうが。いじめられた側はどんな”事情”があっても「いじめ」として発見されたときからいじめの被害者なんですわ。「いじめ」として認識されていなかったときにどうであれ、ね。
被害者は常に正しくて、清くて、無辜で無垢で善人であってくれたほうが面白いでしょうが!エンターテイメントでしょうが!クソが!
で、加害者ですよ、問題は。どうなったかって?同調圧力かけて1人でいじめられないような人間性の奴等が跋扈してる世間ですよ。ネット上にどんな罵詈雑言、殺害予告が載ったからってなんなんですか。
出掛けた先で1対1で遭遇したときに「お前は人殺しだ」って言えますか。そりゃ、”正しさ”でいえばそのバックに何人も控えているかもしれませんけど、物理では1対1ですよ。しかも人を1人死に追い遣れるような人間が。そしてそれを、多少の戸惑いはあれど、自己正当化に逃げようとしている人間に?
できますよね、大義名分、正義、正当性という無敵のエクスカリバーを持っているんですからね!1対1で、ま、1対2くらいなら言いに来るといいと思います。
動画だって、ろくにボクの顔、見えちゃいなかったんです。最近のアイドルは全部同じ顔に見える?どの口が言うんですか。このツラを覚えてください。写真を撮るといいと思います。ボクが金髪にして、化粧して、顔中に刺青を入れて、私服を着るようになっても、分かるように!
ま、そういうことです。でもね、親を攻撃してくるのは浅ましいですね。けれど仕方ないです。親の金で養われているのですから。悪い植物は根っこから毟り取らないと。じゃ、葉っぱから朽ちてやらないと。でも、誇ってるって言ってくれてるんですよ、ボクのこと。それだけが、逆に後悔することは自分に対する冒涜だなって理由なんですよ。
別にボクも、手当り次第人を攻撃していじめたいワケじゃないんですよ。つまりナイフとガソリンを持って拡大自殺をしたいわけじゃない……
これも広告収入稼ぎのための取材でしょう?いいですよ、都合の悪いところはカットしてください。勧善懲悪風に。すっきりヤーパンみたいに。カタルシスを与えてあげないと。求められているのはエンターテイメントでしょう?義憤が趣味と生き甲斐であるのが、現代というのか、常になのか、人の世の流行とステータスですからね。
他人の不幸は蜜の味とまではいいませんけれど、他人の苦労は蜜の味ですから、仕方がない。その蜜でアレルギーを起こさないことを切に願いますよ。他人の人生は所詮、すべてエンターテイメントであって、ボク等は生まれたときから望まぬエンターテイナーでしかないのですわ。ピエロでしか。
じゃ、さようなら。今日はありがとうございました。
―長いインタビューを終え、今回の記事のタイトルは「いじめをして後悔している」に決まった。
いじめをして後悔している .六条河原おにびんびn @vivid-onibi
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