悪魔と願いのパラドックス
ねこまんま
現実
朝起きるとリビングには、
「ハナちゃん、22回目の誕生日おめでとう」
そう言って私に笑いかけた。
「ぼくは、君を
「そう、ありがとう」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
図書館の司書さん達が集まって私をお祝いしてくれていました。
時計の針は、10時10分を指していて私を
私の12回目の誕生日。
私は、よくパパに図書館へ連れてこられていました。
そこは街の中心部にあるとても大きな図書館。
日当たりのいい窓辺にキレイな木目のテーブル。
大きなロッキングチェアなんて置いてある。
そして、大きな時計が有名な。
そんな場所です。
とても雰囲気のいいところで、外には小鳥さんがたくさんいて鳴いている。
たぶんだけどね、おはようって言ってくれてる。
司書さん達もみんな優しくて、毎日特別扱いされています。
そこは少しの
そんな場所でした。
私は毎日ここへ来て、同じ場所にいます。
不便は、友達がいないことぐらいだったかな。
今日も朝からお勉強を始める。
愛用の
私は本は、好きです。
本は知らないことがたくさん書いてあって、あの場所からいなくなれる
パパは、お家にいると私を傷つけるの。
私のせいでママがいなくなったから、寂しいのかもしれない。
私を放っておけないらしくて学校には行けていない。
でもここで会う人達はみんな優しくて、
たくさんの本に囲まれて
勉強だって出来た。
全然寂しくなかった。
お腹が空いたなー。
なんて思ったらいつも3時間ぐらいがたっています。
お昼になると、隣にあるお店でサンドイッチをいつも食べているの。
ふかふかのパンには、いつもと同じチェッカベリーとチーズが入っている。
それを両手でいつも
チェッカベリーとチーズがなぜ合うのか、私はいつも考えているの。
ベリーの酸味とチーズのまろやかさ…だけじゃない。
ベリーの色やプチっと弾ける様な食感から、
全てを包み込むチーズと牛乳くささがとっても…好みじゃありませんでした。
今日も、おいしくいただきました。
お金は、いりません。
全て父が払ってくれてるみたいなので。
食後にダルマイヤーのコーヒーを飲んで一息つく。
そして、私はいつもの様にいつもの場所に戻ります。
今まで、たくさんの本を探しました。
たくさんの。
今日で最後にしたくて自分より少しだけ背の高い本棚に行きます。
設置されたハシゴをせっせと押してスライドさせると、少しだけいい運動になります。
───ギッ─ギッ─ギッ
本は、左から右に上から下に50音順に並べてあります。
誰にでもわかりやすくなっています。
今日こそわと、そんな気分でした。
本にはタイトルと内容、表紙だったりとか好みがあるけれど、私はなぜか本にオーラみたいなものが見えていました。
本をいっぱい読んだからかもしれない。
本棚の終盤にとても目を引く本がありました。
とても吸い込まれるように黒くてピカピカ。
光っているとは違うのかもしれません。
【メフィストファレス】
とそう書かれたその本は、とある魔術師の話しが書かれていました。
16世紀にいた、黒魔術師の話でした。
彼は、とってもすごい人で全てを手に入れて魂をとられた。
でも、なんでとられたのだろう。
そんな疑問を持ちつつ中盤まで読み終えると魔術の仕方が書かれていました。
とても簡単ですぐにできそうな、とても興味の
準備するものは、私の血と簡単な呪文、赤い果実。それと小鳥の死骸でした。
図書館の周りは、小鳥が多いのでとてもよかったです。
それとよくわからないものは、隣のお店でそれらしいものを
私は「一人で帰る」と司書さんに嘘をついて図書館の奥でひっそりと、身を潜めていました。
あとで、罰は受けようと思います。
図書館が閉まるのを見計らって私は、それを準備しました。
誰もいない夕刻。
静まり返った時間に私は、それを行いました。
大きな器に、ハサミで
そして、指を少し切ります。
切りすぎちゃって血がボタボタでてたけど、もういいよね?
呪文は、単純なものでした。
でも上手く言えているのかわかりません。
その時には、もう窓から見える外は暗く、光がうっすらと見えるぐらいでした。
──────チッチッチッチッチ
と、思った瞬間でした。
光が…またたいた。
さながら、暗く濃い光の様でした。
黒い何かが私の前に浮いて…
「こりゃたまげた。まだお嬢ちゃんじゃないか」
黒い
私は、その存在に飲み込まれる様な感覚だった。
気持ち悪い。
「まぁ、いい。知識か富か永遠か、はたまたこの世の真理でも知りたいのかい?願えばいい。ただ私は叶えてやる。お前の寿命と引き替えに」
その人間の様な、すらりと伸びた背筋と異質な存在を目の前に、私は喜びを感じていた。
「私は、あの日に帰りたい。」
「それでは、聞こう。なぜ、それを願う。その
そんなの誰かが言った
それに耐えられない私がいる。
願っても頼んでも叶えられるものなんかじゃない。神様や人みたいな、ただ聞くだけ存在になんてなおさら。
だったらそれ以外のものに、すがったって、ねだったっていいじゃない。
みんなに合わせたあんな人達には、なりたくない。
私は、いつも同じ場所に居るのが嫌だった。
いつも同じものを食べるが嫌だった。
ハナちゃんなんて勝手に呼ばないでほしかった。
本を読むのが嫌いだった。
苦痛だった。
この毎日が辛かった。
自分が不幸だ、なんて感じることが不快で怖くてとても寂しかった。
「そりゃそうだ。神様なんているかもわからねぇもんだしな。」
「でもよぉ。お嬢ちゃん勘違いしねぇでほしい。これは、希望や要望を叶えるもんじゃねぇ。お前が、そう願ったんだ。」
「わかってる」
こうなりたいと思うのではなく、
私は、こうあってほしいと祈る様に願う。
「そして俺は、あくまで事象を変えるだけだ」
パチンと悪魔は、指を鳴らした。
─────チッチッチッチッチ
時計の針が逆回転をはじめた。と思うと、
ふっと目の前が暗くなった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ママとわたしがそこにはいた。
おうだんほどうを歩く前、しんごうが青になる。
わたしはしっかりと立ち止まり、ママの手をにぎった。
「どうして泣いているの?」
───がんばったんだよ。
わたしは言った。
泣きわめくわたしを見て、ママは首をかしげてわたしの頭をなでた。
その手は、とてもあたたかくて、ただそれだけのために生きてきたようなそんな気がした。
それからは、しあわせな日びだった。
ママがいてパパがいて、わたしがいる。
三人で飲むダルマイヤーのコーヒーは、ためいきの出るくらいしあわせのひとときだった。
そういえば、あのあくまとのけいやく内容はなんだったかな。
わたしは、知っていた。
あれって未来のお話しなんだよね。
わたしが、あと何年、生きられるかなんて誰にも証明できないよね。
悪魔にでも。
悪魔と願いのパラドックス ねこまんま @kumantinus
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