二十一、ポインセチア


 デイサービスではクリスマス会を毎年催している。

 曜日によって参加者が変わるため、月曜日から金曜日の五日間開催するそうだ。

 その時のレクリエーションの内容や演出などを、修君がキミと小夜ちゃんと話し合っている(ように見えた)。


 修君はテーブルに企画書を広げ、ポテトチップスとペットボトルのお茶を準備し、猫たちにはお皿にカリカリと水が用意され、修君に付き合わされている。


 まぁキミたちは「部下」だからね。

 資料を挟んで向かい合って座っている様子がたまらなく可愛い。


 キミが修君のペンで遊ぼうとすると、小夜ちゃんが猫パンチで軽くたしなめる。

 いたずら好きのキミの、小夜ちゃんはまるでお姉さんだね。


 修君はスタッフの配置で悩んでいるみたい。

 レクリエーションのためにスタッフはそれぞれ忙しい。

 もともと介護で忙しいので、あまり人を割くわけにはいかない。

 

 クリスマスの特別メニューのため、所長は厨房を手伝う。

 そうなると、修君が中心になって進めていくことになる。


 ここまではキミたちとの会話?らしい修君のひとりごとで理解した。

 修君が司会進行するのに、役割は持てないよね。

 

 ここはキャリアウーマンの私が助け舟を出そう。

 人が足りなければ、スポットでアウトソーシング?


 要は助っ人を頼めばいいんじゃないかな。

 修君たちの業界では、ボランティアだけど。


「ねぇ母さん、だれかサンタクロースのボランティアやってくれそうな人はいない?」


「そうねぇ、一人くらいはいるけど、五日間ずっとだよね。」


 その「一人くらい」の人って、もう確定してるってことだよね。


「やってくれるかしら?」


 そういう母さんの顔が妙に明るい。

 あ、そういう人ね。


 お母さんの仕事は横須賀に来る海兵隊の人たちに日用品や食料品、娯楽品やお土産まで、依頼があれば用意する手配屋の会社のパートさんなの。

 港に艦船がいないときは、それほど忙しいことはないのだけれど、この前の空母が来た時には残業するくらい大忙しだった。

 

 このお仕事はお父さんの紹介で始めたの。

 

 不定期に忙しい仕事で、少し英語ができる家庭の主婦向きのお仕事で、忙しさに関係なくお給料が出るから、ありがたいお仕事だって。


 お母さんは携帯で連絡を取っている相手は退役軍人のサムおじさん。

 現役時代には物資の調達係で、お母さんとは仕事で顔なじみ、日本語も上手だから日常会話は日本語でしてる。

 よく湘南でサーフィンしてたみたい。

 

 でも、商売の話になると、英語で勢いよくしゃべるから、お母さんも大変だったって。

 退役するすこし前は、風紀委員みたいな仕事で、やんちゃな若者たちにも一目置かれる存在だったとか。

 

 引退後は大好きな日本に住みたいって。

 もう60歳を超えているのにパワフルで、一人者の自由な生活をしている。

 でっかいバイクで遊びに来て、時々母さんを連れて、日本の観光をしている。


「ヘイサミィ、お元気ですか。」


「ファイン、今日はどうかしましたか?」


 英語と日本語が混ざったかなり特殊な言葉で会話をするから、もう二人にしかわからないんだろうな。


「私の新しい家族も紹介したいから、来てくれないかな。」


「OK、喜んで。

 スグに出ます。」



 ドドドドッと大きな爆音とともに、バイクに乗ったサムさんがやってきた。


「ハイマリィ、みなさんオゲンキですか?」


 あいさつをした後、母さんは私たちを紹介した。


「この子、覚えてる?

 バービー人形を肌身離さず持ってたさおりよ。」


「もうすっかり大人になって、結婚したんだね。

 私がプレゼントしたバービーを肌身離さず持っていた女の子が。」


 おじさん、目頭をぬぐっていた。


「そしてこちらがさおりのハズバンド、修よ。」


「ヘイ、オサム、ナイストゥミーチュウ。」


 修君と握手をして、そのあと背中をバシバシたたいている。

 修君は何とか、


「よろしくお願いします。」


 そう言うのが精いっぱいだった。

 そして猫のキミと小夜ちゃん。

 この2匹の紹介をした後に、サムおじさんは小声で、


「オーマイガッネス。マイマスター。」


 本当に大切な人にでもあったかのように、そっと猫たちを撫でていた。

 バイクの音で怖がっていた小夜ちゃんも、キミと並んでおとなしく撫でられていたね。

 なんとなくサムおじさんがキミたちに参拝でもしているような、不思議な荘厳さを感じたよ。


 サムおじさんは日本に住んでいて、普段から日本語で生活しているので、言葉はそれほど心配することはなかったみたい。


「オサム、任せておけ。

 オレもそろそろ日本で活動をしたいと思っていたんだよ。

 日本はいいところで、みんな親切。

 でもね、区別する。外人って。」


「それは、言葉の壁じゃなく、異文化への遠慮だと思う。

 日本の考え方を外人に求めてはいけないというような。」


 修君が意見していた。

 かっこいいなぁ。


「それでもね、仲良くなりたい。

 そもそもクリスマスはキリスト教の文化。

 日本では変な形になっているけど、それはそれでおもしろい。」

 

 お母さんは、所々で、

「イエス、ザッツライト」なんていっていた。

 お母さん……なんだか楽しそうじゃないの?


「ボランティア活動に参加できて、とてもうれしい。

 この5日間は毎日マリィとランチできるのもうれしい。」


 ちゃっかりアピールしている。


 結局、午後2時にデイサービスに来てもらい、サンタクロースのコスチュームを着て、出番を待つことになった。



 クリスマス会は、午後のレクリエーションで行われた。

 我らも猫さんたちと遊ぶコーナーで参加する。

 やや小さい木箱や、金魚鉢、細い筒の先にカリカリが置いてある。

 我らはそこを器用に通り抜けるたびに、「おぉ〜」という声が上がる。


 ……まこと、猫は液体。

 人の心の隙間にも、すうっと入るのだ。

 

 その後のプログラムは職員からの歌のプレゼント、そしてサンタクロースの登場。


「オサムとイサムのトークショー」というコーナーが始まった。

 二人の掛け合いトークである。


 寿司屋の大将役のサムと客の修氏との間で、


「さて、何を食べようか……玉子。」


「ヘイ、タマゴ。」


「それじゃ、トロとイカ。」


「ヘイ、トロイカ!

 雪の白樺並木~♪」


 長老たちが手拍子をして喜んだ。


「ストップ、違うよ。

 トロとイカ!」


「ペレストロイカ!

 ハラミ~♪」


「それ、ハラショー!

 もういいよ、ごちそう様、いくら?」


「ヘイ、イクラオマチ!」


「えっと、How much?」


「ヘイ、ハマチ」


「それじゃ、上がり」


「ヘイ、ガリ」


「もう!おあいそ!」


「Oh,I‘m sorry.」


「もうええわ!」


「ウォーアイニー!」


 そう言ってイサムは修を抱きしめた!

 長老たちから「キャー!」と歓声が上がり、スタッフが思わず吹き出す。

 修氏は顔を真っ赤にしながら、


「いや、もうほんと、誰か止めて……」


 マイク越しに情けない声を漏らした。


 オサムとイサムは、時々英語交じりの日本語で、絶妙なボケと突っ込みで笑いを取っていた。

 台本は書いていたようだが、イサムのいたずらなアドリブで、半ば困った修氏を、いじっていた。

 

 デイサービスからのプレゼントをサンタクロースからもらって、長老たちも満足げな笑みを浮かべていた。

 皆を幸せにするサンタクロース。

 万人に愛され、そして民を愛する幸せの使者であろうか。

 我もそのような帝になれればよいなと思ったこともあったな。

 そう、小夜と静かに語らうのであった。

 

 なに? プレゼントは?

 小夜にせがまれても……。

 今年の贈り物は、すでに君の隣にあるだろう?

 ……とは、恥ずかしくて言えなかった。


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