十二、如月
やっぱり私は三浦に帰ることにした。
アイツと顔を合わせるのも照れるけど、このままでは在宅勤務ができないから、実家に帰ると母に電話で伝えると、
「やっぱり修ちゃんが恋しくなったの?」
とからかうから、
「アイツことはどうでもいいけど、実家じゃないとパソコンが言うことをきかなくて困ったのよ。
明日帰るから。」
故郷の駅に到着したのは夜、すっかり暗くなって凍えそうな寒さだった。
改札を出た瞬間、そこにアイツが立っていた。
お迎えなんて予想していなかったから、胸がぎゅっと締めつけられるような驚きと、少しの嬉しさが入り混じって、もうどんな顔をしたらいいか、わからなくなった。
泣きながら お帰りなんて ずるいから みんながみてる 顔がみれない
「帰るわよ。」
と、一言いうのが精いっぱい。
こんなにも帰りを待っていてくれたなんて、アイツの誠実さには私のほうがコロッといっちゃいそう。
家に帰って早速インターネットにつないでもらい、これで仕事ができると安心していた。
「これでしばらくはこっちに居られるよね。」
アイツは聞き取れないような小声でそう言った。
それでも明日のデートの約束を取り付けると、意気揚々と帰っていった。
それ以来、休日になるとアイツは今まで通りに迎えに来て、猫缶買うのに付き合い、ヨットハーバー近くのおしゃれなお店でランチ、本当に変わらず接してくれている。
でもね、それじゃいけないの。
何かが変わっていかないと、ずっとこのままなんだよ、私たち。
お詫びなの これからもっと 振り回す ランチタイムに マグロ一切れ
「ちゃんと食べてるの、あの仕事は体が資本なんだから、しっかり食べなきゃだめよ。」
といいながら、私のおかずを分けてあげたの。
そう、変わっていないのは私の方。
アイツは前と同じように接してくれているのに、変化を求めるのは違うよね。
だって、私、修君にとって、「いいお姉ちゃん」でいるようにしていた。
……怖かったのよ、年上だし、関係が変わってしまうようで……失うことが。
でももう、お姉ちゃんやめなきゃ……ね。
我には女房が意を決して、何かをしようとする気持ちが見えた。
そうか、流れを変えたいのだな。
ならば我も手を貸そう。
いや、足か?
とにかく女房の足元をちょろちょろ駆け回り、その瞬間を演出するのだ。
女房が足元からバランスを崩すと、修氏がすかさず手を捕まえて支えに入る。
「あぶなかったね。」
と、修氏が手を離すと女房はすかさずその手を捕まえて、一緒に歩きだす。
うん、見事である。
手を握る お願いだから 照れないで 頑張ってみた 私を見てて
「……あぁ、もう。このままじゃダメなんだ。」
そう思った瞬間、手が勝手に動いていた。
自然にきっかけを待とう、アイツから言い出すのを待っていたけど、私だって、そんなに積極的なほうじゃないから。
淑女たるもの、がっつりした女だと思われるのも嫌だけど。
でもね、今日は違うの。
手をつないで一緒に歩きたいって、自分からそう思ったの。
気づいたら、手が自然と伸びていた。
戸惑いながら、アイツの温かさを感じた瞬間、これでいいと心で囁いた。
自分でも驚いちゃった。
ずっとそばにいたい、隣で一緒に笑っていたい、安心していたい。
あぁ、これが穏やかに進む恋なのね
ありがとう あなたのそばに いるだけで 安心してる 私がいるの
「修君、私あなたに言えなかったことがあるの。」
「はい、なんでしょう?」
「私、あなたよりお姉さんで若くないでしょ、だから、あなたとずっと一緒にいてもいいのかなって……。」
「俺、気にしてないっす。さおちゃんのこと、お姉さんみたいに思えていたから、もともとそうだから、気にしていないっす。
ただ、いろいろ大変そうだから、できることを手伝おうって勝手に思っていただけっすから、気にしないでください。」
「……え?」
修氏は奥手とも聞いていたが、これではまるで女房を恋愛の対象として気にしていないと取られてしまうであろう。
君見つむ 瞳合ふごと ほほを染め 言の葉絶ゆる 頼りなき我
自分を好きになれぬ者には、他を想う勇気もまた、足りぬものなのだ。
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