第16話
昔、佑月はいじめられていた。小学校高学年に上がったあたりから、男女の性の違いを意識するようになり、恋愛も増える。そして圧倒的にモテた佑月は、煙たがられて、気の強い女子にいじめられた。
そして中学校に上がってからは男子からちょっかいを掛けられるようになり、仕舞いには人気のない教室に呼び出されて襲われかけた。幸い火事場の馬鹿力とでもいえる体術で切り抜けたが、それ以降人間不信になって、親も相談に乗ってくれても碌な回答もアドバイスもなく、ただただ孤独になって、不登校になった。そして引き籠りではよくないからとやらされたことが原因で心が限界を迎え、心療内科に行って鬱だと言われた。
何とか高校入学までに安定期には入ったものの、あまり人と深くつるめず、薬のせいで朝はほぼ睡眠。体力も落ちたので授業にすら付いていけない。
結果、八方美人の眠り姫の完成である。
だからこそ――
「由夏ちゃんみたいに普通に接してくれる人、好き。えっちだけど……」
「それは佑月もでしょー。ま、あたしも佑月みたいに普通の同級生として接してくれるのは嬉しいよ。みんなから遠ざけられてるからさ」
理由は違えど似たような立ち位置、深く詮索せずただ話を聞いてくれるだけの姿勢。ずっと、そういう相手が欲しかったのだ。
「初めて声かけられたときはびっくりしたけど、初手が恋バナだったからさ。不良どうこうなんて関係ないよ」
「タバコ吸ってるところも見たのに?」
「絶対口外しないでほしいんだけど、お姉ちゃんもそうだったからねー。それに、迷惑かけてないんならいいんじゃない?」
「普通に接してくれる理由、ただ淡泊ってだけ……?」
「まあそうかも。でも、その方がやりやすいでしょ?」
「それもそうだけどね~」
淡泊なのは、ある程度距離を取るためだ。と言っても距離を取る相手なんて途中からいなくなったが、その癖が残っている。それが由夏にとってもやりやすいならなによりだ。まあ、今じゃ気にしないだけでだいぶ感情はむき出しだが。
「とか喋ってたらタバコ吸いたくなってきたな~」
「ダメ、我慢」
「流石にダメか~」
「由夏ちゃんはもうちょっと雰囲気ってものを……」
「いつも雰囲気なんてないでしょ。まあでも、キスで我慢してあげる」
「ほんと、すぐしたがるんだから」
「でも、いつもそっちが誘って来てるけどね」
否定はできない。だって、由夏相手だとどうもそういう気になってしまうのだから。なぜか分からないが、頭が蕩けてしまうのだ。甘やかし上手の極みというか……。
「う、うるさい。キスしたら、今日は寝る」
「じゃあ」
佑月は自ら由夏の唇に唇を重ねると、彼女は当たり前のように舌を絡ませ濃厚なキスをしてきた。やはり、頭が蕩けてしまうが、それ以上する気分にはならず、佑月はそのまま一人でベッドに入った。
起きると由夏は夕飯を作ってくれていた。そして、ちゃっかり咲綾もリビングにいる。
「あれ、お姉ちゃん……」
「佑月起きたんだ。聞いたよ、由夏に色々話したんだって?」
「うん。由夏ちゃんなら、話せそうだなって思って」
「いい子なんだね」
「ただ話を聞いてくれて、すぐにわたしの気分変えてくれるんだよ」
その手法はともかくとして、だが。
「佑月にもいい彼女が出来てよかったよ。まあ、付き合うまでの期間はびっくりしたけど。やっぱなんやかんやでチョロいね」
「そんなところまで聞いたの……」
「お姉ちゃんとしてちゃんと把握しておかないとだからね」
「まあ、お姉ちゃんが知る分にはいいけど」
咲綾に色々知られる分には問題ない。彼女も、佑月の中では味方で居てくれる人の側だ。それに、由夏との事も相談しやすいし。
それはそうと、そこまで話すようになるまでが早すぎやしないだろうか。
「てか、いつの間にかそんな話してたの?」
「知らない子がいたからさー、誰って聞いてるうちに話が弾んでね。あとファンムーブかましてこないからやりやすいんだよね」
「まあ、家が家で有名人を見てもあんまりはしゃぐなって言われてるので」
「すごい教育だね。しかし、本当に佑月にいい彼女が出来てよかったよ。私以外誰も信じてなかったのに。どこが好きになったの?」
「うーん……基本一歩引いたところから話を聞いてくれるけど、いざという時は引っ張ってくれるところ、とか? あと――」
ごにょごにょごにょ。
短い期間だが、由夏の好きなところはたくさんできた。
普通ならそれが友人としての好きなのかもしれないが、そもそも友人のいない佑月には、大した違いではない。それに由夏は、堕とすと言った。きっと、これからもっと好きにさせてくれるのだろう。
「あはは、照れるなぁ。あ、ご飯出来たよ」
それに、料理が上手なところも。
「佑月、夕飯は前と同じくらいの量でいい?」
「あー、寝起きだから少な目でお願い」
「その分私にちょうだい。今日すっごい動いてお腹空いてるんだよねー」
「わかりましたー」
その日、夕飯を食べてから由夏は家に帰った。
それから、夏休みは平穏な日々が続き、課題も終わり9月を迎えた。
――相変わらず、佑月は図書室の眠り姫である。だが、最近は少し違う。
授業中は半分ほど寝つつ体育の授業になると、ふらっと消える。場所は、保健室だ。
「あら、宮野さんに柏木さん。今日もサボり?」
「佑月は仕方ないけどあたしはサボりー。今日ここで会ったことはなーんにも、聞かなかった事にしてね」
「はいはい、イヤホンしてるわよ」
由夏と養護教諭は仲がいいらしく、結構融通が利く。先生は外に出ると、扉を背もたれに前に立った。
保健室で二人きりになるや否や、由夏は佑月のスカートを脱がせ、キャミソールの下に手を滑り込ませる。
「いつもはタバコの時間だからね」
それは知っているし、元々そのつもりで来たので断らない。というか、由夏に「行こう」と言われれば断ることができない。
甘噛みや舌使い、指使いに脳が負けているのだ。
「そういえば今日、こんなの持って来たんだよねー」
由夏が隠し持っていたのは、大人の玩具だった。きっとネットで買ったのだろうが、まさか学校に持ってくるとは。
「今日は、佑月が気持ちよくしてよ」
「……うん」
「そういえば、由夏ちゃんってどういう子がタイプなの?」
「佑月みたいにちっちゃくてわかりやすくて素直な子かなー」
「そ、そういうの以外で」
体育の授業がもう少しで終わろうかという頃、佑月はそんな事を聞いた。
「おしゃれな子。ピアスとかしてたら点高いかも」
「ピアス……」
由夏が言うのなら、付けてみようかとふと思った。だが、本来は校則で禁止されているし、痛いのも怖い。どうしようか数分悩んだ末に、やってみる、と答えた。
「じゃあ、今日の放課後、家来てよ。ピアッサーあるから」
「その、痛い?」
「んー、まあちょっとじんわり痛むこともあるかも。けどそんなでもないよ」
「そっか。じゃあ、やる」
「ふふっ、あたしのため?」
「そ、そうじゃ――まあ」
否定したところで、どうせ彼女はそうなのだとわかっているだろう。
「そういうところも、本当に可愛い。あたしのにしてよかった」
そう言って由夏は髪を撫でる。終わった後のこの感じ、癖になってしまう。
これからは、もう何も考えずにこの快楽に身を委ねたらいい。そう思うと、本当に由夏のものになってよかったと思える。
体育は六限だったので、そのまま佑月たちはHRもサボってから家に帰った。
「じゃあ、行くよ」
荷物を置いた後、由夏の部屋でピアッサーを耳に当ててもらう。
ぱちっと音がした後、一瞬痛みが走る。
「これ、あたしのファーストピアスとお揃いだよ。二、三ヶ月程度で好きに付け替えられるから、その時はまたお揃いにしようね。いや、それもいいけど似合うの付けたほうが……」
どうやらお洒落に気を使う者としての考えもあるようで、何やら悩み始めた。
「わたし、よくわかんないから由夏ちゃんに任せるよ」
「ならその時になったら一緒に買いに行こっか」
「そうだね。楽しみだなあ」
散々えっちしたからか、その後にもしっかり構ってくれるからか、気づけば何か温かい感情を抱いていた。
それが、佑月の新たな人生の始まりになるのだった。
図書室の眠り姫が不良に落とされるまで 超越さくまる @cvHORTAN_vt
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