第14話
罪悪感が込み上げる。
仮とはいえ付き合っている男子がいる中女子同士だからと何度もえっちをして、その挙句私の物になってと言われて承諾してしまった。
あまりにも不誠実ではないだろうか。他の人を好きになるかもしれない、あるいはそもそも好きにならないかもしれない。それを考えての仮期間ではあったが、そこまで行ってしまうのはどうなんだろうかと、心の中でずっとモヤモヤしている。
どう答えようか。断るにしても、断る理由が理由だ。だが、このまま付き合い続けるのは不誠実が過ぎる。いっそのこと由夏が――なんて、人任せなことも考えた。
なかなか答えが出ない。
男子に手を出されそうになる、そんな形で嫌悪感を抱いたことはあるが、こうして自分自身が中心として好意や罪悪感を抱くなんて初めてだ。
「やっちゃった……」
佑月は由夏の胸に顔を埋めて、もう遅い後悔を言葉にする。
「佑月のそういうところ、ほんと可愛い。もう佑月はあたしの彼女なんだから。諦めて、一緒にお風呂でも入ろ」
「うん……」
汗や愛液で汚れた体を流しに、佑月たちは裸のまま風呂場に向かう。
シャワーでお互いに流しあって、気持ちよくなる。もちろん、普通に。
「あぁ、ちょっとくらくらする……」
「ごめんね、体力使わせすぎちゃったかも」
「ほんとだよぉ……」
「でも途中からすっごいノリノリで甘えてきてたじゃん」
「それは、由夏ちゃんが誘ってくるからで……」
途中、何度もキスをねだり抱き着いてもっとシて? とねだり、とにかく甘えていた。おかげで佑月のいたるところがぐしょぐしょだ。
それを流して風呂から出て、佑月たちは脱いだ服に股着替える。幸い服の方は汚れていなかった。下着はともかくだが。
由夏は下着を変えると、家に戻った。
なんだか長い午前だった気がする。色々な感情が押し寄せてきて、佑月は濡れた自分のベッドデハナク、部屋のビーズクッションに倒れ込む。もう疲れた。逆に楽になるのかもしれないが、吹っ切れるまでは当分動いてはすぐだらけて、そんな日々が続くだろう。
そう思っていたが、そもそもそんな猶予はなかった。
再び、兄から連絡が来る。そっちは吹っ切れてもう帰らない、と思っていたのだが、返信がないということは帰らないのだろう、ということで向こうからやってくるらしい。
せっかく少しだけ気楽になったのに、また面倒で負担のかかる事が押し寄せてきた。
咲綾は都合上一緒に入られない。言いくるめたら由夏も一緒にいられるかもしれないが、きっと巻き込むには重い話になるだろう。帰ってこいとまで言うのだから、そんな予感がした。
「はああああああぁぁぁぁぁ」
「どしたの、そんなため息ついて」
「あ、由夏ちゃんおかえり。あのね、もういっそ実家戻んなくていいやって思ったら、向こうから来るって」
「そんなに嫌なの?」
「うん。お父さんもお母さんも、お兄ちゃんも嫌いだし。詳しくは、あんまり話せないけど」
詳しく話すには、あまりにも重い話になる。彼女になった、といえるのかは分からないが、話すにはまだ早い気がする。
それでも言いたくないということは察してくれたのか、由夏はそれ以上深堀しなかった。
「まあ、その時は一緒にいてあげるよ。彼女として」
「彼女……」
「佑月、もうあたしのなんでしょ?」
「そう、だね……。よろしく」
◇◆◇
家族がやってくる前に、壮太との決着の日がやって来た。
その日は壮太は部活もなく、佑月もこれといった予定もない、一日中一緒にいられる日だ。場所は学校で、お互い制服。そして、佑月が幽霊部員として所属している文芸部の部室が約束の場所だ。
文芸部の部室は夏休み中あまり使われないので、佑月としてはちょうどいい場所である。
「おはよう、壮太くん。えっと、待たせちゃったかな?」
「いや、俺もさっき来たところだから……って言いたいけど、緊張しすぎて早く着すぎてな」
これはもういける、そう思っているのだろう。雰囲気的にも流れ的にもそうだったし、佑月の気持ちとしてもまた押しが強ければ付き合うかも、なんて思ったこともあった。
だが、今は違う。確かに壮太は好きだが、結局その好きが何なのか答えは出ないまま、由夏の彼女になってしまった。仮の彼氏と彼女がいる状態。そして進展しているのは、彼女の方。進展していると言っても方向性が違うが。
それに、由夏と壮太とで好きのベクトルが今のところ同じな気がしている。
「ははっ、なんか締まらないけど、こういう雰囲気のほうがいいか」
「まあ、緊張よりは……」
「それで改めて、俺と付き合ってくれ。今度は、正式に」
少しの間、佑月は沈黙する。
その瞬間に様々な思考が駆け巡る。今まで考えてきた壮太との関係や由夏との関係、そして好意の種類。
壮太にならどこまで許せる?
壮太とどういうことをしたい?
壮太と将来どうなりたい?
そんなことを考え、やはり――
「ごめん」
それが、佑月の結論だった。
これ以上一緒の空間にいると、気まずさと罪悪感で死んでしまいそうだ。
仮という関係に甘えて何をしたか――自分がどれだけ最低か、思い知ってしまう。
彼にはすごく良くしてもらったのに。それなのに裏切ってしまった。
「好きっていうの、やっぱりわかんなかった。けど、楽しかったよ。色々良くしてくれたり、デートも楽しかった。けど――」
言いたくもない言い訳がすらすらと口から出る。それと一緒に、涙も流れてきた。
「そっか……。ありがとな、一ヶ月間。楽しかったよ」
「わたしも、楽しかった……」
そう言って、佑月は逃げるように教室から出る。
「あーあ、やっぱフラれたかぁ」
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