アイドルたちのひみつ

つむぎとおじさん

全1話

今をときめく男性アイドルのレン。

テレビ局への移動中に、いきなり週刊コバンザメの記者たちにかこまれた。


「レンさん、タレントのユキモさんとの密会についてお聞かせください」

「はあぁ?」

寝耳に水である。レンには全く覚えがなかった。


「なにかの間違いじゃないですか。ユキモちゃんとは2、3回共演しただけですよ」

「ケケケ、そうですかね。証拠があるんですよ」

記者はニヤニヤしながらスマホの画面を見せた。


東京都内のロードマップのようだ。ひとふで書きのように道路が赤く塗りつぶされている。

「これ、レンさんが動いたルートなんですがね」

レンはおどろいた。いつのまに、どうやってGPS情報を手に入れたのだろうか。


「で、こっちがユキモさんのやつ。この二つを重ね合わせると……」

記者はスマホ画面をレンの顔の前に突きつけた。


「ほらね。レンさんとユキモさん、ちょうど一週間前、ホテルの同じ部屋で、重なり合ってますよね?」


レンは思い出した。たしかにこのとき、自分はこのホテルにいた。だが会っていたのはユキモではなく、別の人間だったのだ。しかし、このことは口が裂けても言えない──。


同じころ、タレントのユキモもコバンザメ砲を食らっていた。


「ククク、レンさんとしっぽりお楽しみとは、可愛い顔してなかなかやりますな」


じっさいにユキモはこの時間、ホテルの部屋にいた。そしてある人物と会っていた。

だがその相手はレンではない。レンは部屋にいなかった。そもそも知り合いでもなんでもない──。


レンもユキモも否定しなかったため、記事は大々的に報道された。

二人はまったく身に覚えのない“密会”のために当分謹慎させられることになったのである。


二人にはそれぞれ恋人がいた。

記事の見出しに、“浮気”という言葉を使われたが、どちらも独身なのでその点でも誤報である。


いったいなぜこんな間違いが起こったのか。

本人から直接話を聞くのがいちばんだろう。そう考えたレンは関係者の伝手をたどって、ユキモの連絡先を手に入れた。

ユキモも同じ思いだったらしく、二人は都内の某所で合うことになった。


「そういうことだったのか」

小一時間話しあったあと、レンは納得顔でうなずいた。

「こんな偶然ってあるのね」ユキモもようやく腑に落ちた様子だ。


なにをかくそう二人は国際スパイだったのである。

レンは中国MSS、ユキモは北朝鮮RGBの。


前回の定期報告は一流ホテルの一室で行われた。

レンは617号室、ユキモは717号室でそれぞれの関係者と会っていた。

たまたま二人は同日、同時間にホテルにいたのである。


「通信衛星から見たら、同じところにいるように見えるもんな」

「コバンザメももうちょっと突っ込んで取材してたら、国を揺るがす大スクープだったのに」

ユキモは笑った。


「今日、ケータイもってきてる?」

「そんなわけないでしょ」

「僕もだ。ところで僕たちさ」レンは立ち上がり、ユキモの隣に座りなおした。


「浮気してないのに、したことにされてる。やんなっちゃうよな」

レンの手がユキモの肩にまわる。

「ほんと、やんなっちゃうね」

「これってもったいないと思わない?」

「うん、たしかにもった……」


ユキモの言葉は、レンの唇でさえぎられてしまった。


(終わり)

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