第39話 怒れる城主

 やはり、ルークが言っていたようにパラメキアから逃げてきている人達のおかげなのだろうな。


 この独特な鼻をつく臭いといい、街の中には明らかに急ごしらえで作られたと思える物見櫓が街の四方の方角に建てられている。


 誰かしらかが街の外を見張っている姿が見えた。




 俺達は、まもなくこの街で一番大きな宿屋を聖騎士団のエリアが確保してくれたので久しぶりにお世話になる事にする。


 日が暮れてきたのでトーレス城には明日行くことにした。




 ここは、酒場もギルドもあるので、情報収集が


しやすい環境と言える。




 メリルと双子達は先に部屋で休むと言うことなので俺と聖騎士団達は酒場でパラメキアから避難してきた人達を中心に話を聞くことにした。




 聖騎士団が一緒だと意外と相手から話をしてくれて助かる。


「かなりの兵士や魔法使いが逃げてきたから。ここは安全な街だぞ」


 酒場やギルドにいる人達はある程度の兵士がいて防御面は安心してるようだ。


 ドラゴンさえいなければ兵力的には城や街を守れると思っている人達が多い。


 ドラゴンもあの臭いで襲ってこないと高を括っている。


 それと、酒場で気になる事をいくつか聞けた。


 まずは、ここのトーレス城の城主ジョセフ侯爵の事だ。


 なんでも、侯爵の世継ぎであるひとり息子のジョージがパラメキア領内に入ったところにあるコッシー砦に視察に行ったところ。


 道中で魔物に襲われ連れ去られたと逃げ帰った従者から報告を聞いたようだ。


 侯爵はその場で従者の首をはねて怒りを露わにしたようだ。


 それとパラメキアが襲われた時にドラゴンに乗っていた騎士が人探しをしていたそうだ。


 その騎士は「ヒデヨシを探している知らぬか?」と頭の中に入ってきて聞いてきたそうだ。騎士はこの国では見たことのない甲冑と剣を持っており頭には角が二本生えていたそうな。 


 男は怖さのあまり恥ずかしながら失禁してしまったそうだ。


「知りません。命だけは……」


 と心でお願いすると、そいつは男の足元に出来た水たまりに冷笑するとドラゴンにまたがり飛びさっていったそうだ。




 はて? 


 ドラゴンに乗るような化物に知り合いがいるはずもなく、もう少し詳しく話を聞くと……。


 なんでも話をしてくれた男は絵心に優れているのでパラメキアが襲われた時の状況やモンマルトルに突如出現した魔王の根城の絵をジョセフ侯爵に献上しお見せしたとの事だった。




 そんな事を聞くと、早く城に行きジョセフ侯爵に絵を見せてもらいたくなる。


 絵の内容によってはアレクサンドリアに持ち帰りジェラルミン王に見せて今後の対策になるかも知れない。


 いずれにしろジョセフ侯爵はアレクサンドリアの謁見の間にはいなかったからどのような人柄かは計り知れないな。


 今回聞けた話は偵察任務に入ってからの一番の収穫で、あとは絵の出来栄えが素晴らしくてアレクサンドリアに持ち帰れたら最低限の仕事をしたことにはなるかも……と思っていた。


 ジェラルミン王からはパール教国に落ちのびた皇帝陛下のご様子まで調査してくるように言われているが、ジョセフ侯爵が知っているのに期待しよう。


 なにせ、あのドラゴンがいる限りパラメキアの更に西にあるパール教国まで行く自信がないからだ。






 翌日、俺達はトーレス城主のジェセフ侯爵に会うためにトーレス城に赴いた。


 城門内は物々しい雰囲気で兵士が声を出しながら仲間と剣や槍の構えをしていたり、従者が馬車に荷物を運んでいた。


「戦の準備をしてそうですな」


 様子を見るにルークが教えてくれた。


 ここもアレクサンドリアの領内の城。


 侯爵といえどもジェラルミン王の赦しもないまま戦の準備などしていたら俺のいた世界なら謀反を疑われるから御法度だ。




 城内でも、ルーク並びに聖騎士団は一般の兵士からは大人気で白を基調とした肩当てや胸当てがかっこいい。


 目立つし憧れの的のようだ。


「城主のジョセフ侯爵にお目通りしたいのだがアレクサンドリア王からの使いなんだ」


 握手を求められた相手にルークは案内を頼む。


 すぐに兵士は知り合いの執事を呼んできてくれてジョセフ侯爵に会う取次をしてくれた。




 ほどなくして、応接室に案内された。


 待つこと一時間ほどして、ジョセフ侯爵が現れた。




「いやいや、待たせて悪かったね。アレクサンドリア王からの使者で聖騎士団の方々だと先に知っていたら……申し訳なかったな。と言っても今は戦の準備で忙しいから手短に頼むよ」




 侯爵は一応に笑みを浮かべていたが口角が下がり目の動きがぎこちないので、すぐに愛想笑いだと分かるものだ。


 横柄な物言いやし、聖騎士団が一緒じゃなかったら会える相手ではないのがすぐに分かる感じがする。


 その証拠にあいさつが終わると眉間に皺をよせていた。


 直感的に俺は侯爵は嫌な奴だと思った。




「アレクサンドリア王から、我々はパラメキアまでの領内の情報収集とジョセフ侯には戦の準備をされるようにと。但し、それはジェラルミン王が動かれてこちらに来られてからの合流になります」




 ルークも思うところがあるのか、いささか興奮気味に目的を話した。


「だから、戦の準備をしておるではないか! ただし、アレクサンドリア王など待ってはおれぬ。準備が出来次第、我が軍はシャングリラ奪還作戦に参る。まずは魔物が巣食うであろうコッシー砦から落とす。ちなみに我が軍勢はパラメキアから逃げてきた正規兵を含めて二万はいる。魔物達を蹴散らしてくれるわ」




 ジョセフ侯爵はかなり早口で話し、いきり立ってるように見えた。


「まだ、戦するかはジェラルミン王は思案中でして勅命を待っていただけませんか。ジョセフ侯爵」




 侯爵をなだめるかのように今度は冷静な口調でルークはお願いする。


「何を生ぬるい事を言っておる。アレクサンドリア王のどう判断されるか分からない事。待っておってはトーレスの城もいずれ魔物に落とされてしまうわ」


 確かに、侯爵は嫌な奴だが言ってる事は悪くない。


「そ、そうだ!? 聖騎士団の貴様らもパラメキア陥落時逃げ失せたのだから、お名挽回の機会をくれてやろうぞ。お主達は我が軍の最後尾にでもついて参れ。まぁ、聖騎士団はともかくとして横のお嬢ちゃんやスケコマシの従者如きが役に立つかは知らんがな」


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