三幕構成との比較

前稿で紹介した作家たちの共通点として、(当然彼らの全作ではないが、主要なものの中で……)『螺旋構造的な心の変化』が挙げられます。


かんたんに書くと『自己、対人、世界とのコンフリクトが絶妙で、葛藤やドラマが永遠に続く(かに思える)』という特徴を持っています。


※ちなみに、『既存作劇法』という括りも乱暴だとは思っています。基本的には、『三幕構成を中心とした映画向けに発展してきた作劇法』と捉えていただければと思います。


また、ここでは『なんで三層コンフリクト法がおもしろいのか』を例題を交えて紹介したいと思います。

それでは例題として……



▼例題:次郎の冒険

優しい小学生の次郎は飼い猫の『トム』を飼っている。

兄ちゃんの『太郎』は強気な中学生。


ある日、猫のトムが木に登ってから降りられなくなった!

次郎は外出している兄に電話で相談すると「お前が木に登って、降ろしてやれ」という。

次郎はどうする??



▼次郎の冒険 のコンフリクト

この物語では、次郎自身(自己)の葛藤、兄(他者)との葛藤、トム(世界)との葛藤があります。

このように、三層コンフリクト法では、『自己』『他者』『世界』三層のコンフリクトを設計し、それを回していきます。

(実際の長編では、他者の軸はかなりたくさんになってきます)


また、この例だと以下のようなコンフリクト構造となります。


<コンフリクト構造>

自己:次郎は「トムを助けたい」「でも木に登るのが怖い」という葛藤

他者:兄の太郎から「お前がやれ」と急かされる

世界:トムは怖がっていていまにも落ちてしまいそう

----------------

結末:次郎はトムを救う


このような構造になっていますね。

いわばこれで、物語の骨格が完成していると思います。

(これが一番重要なコンフリクト設計です!)



▼考えられるシーン

以下のようなシーンがあるとおもしろそうです。

・兄から急かされて追い詰められるシーン

・兄と衝突し、また和解するシーン

・次郎が恐怖を克服するシーン

・トムとの思い出の回想シーン



▼三幕構成との比較

既存の三幕構成で整理した場合、『第三幕で一回だけ、次郎は成長する』ことになります。

しかし、現実世界では『人間は同じことを何度も悟り、なんども間違え、揺らぎ続ける』ものです。

三幕構成に従うと、『次郎が目覚めるのは一度きりで、そのタイミングを外すと崩壊』します。

けれど、『何度も決意し、それでも揺らぐ』というぶれがあるのが、前稿で挙げた作家の作品たちです。

ここが既存の作劇法との最大の違いです!

『一発の決意』で全部進めるのは結構難しいのと、それがきちんとできないと、『キャラが浅く、なんだかよくわからん話』になります。

(一発で決まるなら問題ないし、別にキャラクターの成長や変化を主軸としない話なら問題ないのですが)



▼三層コンフリクト法なら

例えばこんな流れもOKです。

・兄に説得されて次郎は決意

・いざ木に登ろうとするが恐怖

・トムとの思い出が蘇る → 再度決意

・手が痛い → 断念

・兄から電話「無理すんなよ」意外な優しさ

・またがんばる

・足が震える → 自分が過去に友達を救えなかった記憶が蘇る

みたいに、兄という他者とのコンフリクトがあることで、

『意味のある各シーンを積み重ねて、何度も葛藤が描かれる。螺旋状にキャラクターが掘り下がる』のです。

そんな中で、『真の強さ』を手にいれることで、太郎はついにトムを助けられるのです。

(もしかしたら、優しさを活かした別のどんでん返し的な方法を思いつくと面白いですね! 例えば、さらに対立を増やしておき、トムが大嫌いなおじさんを許せたときに、トムを助けられるとか。そうすると、『単純な成長物語』ではなく『真の優しさの受容の物語』になります)



まとめると、


既存作劇法:各ターニングポイントは一度

三層コンフリクト法:何度も決意し揺らぐ。揺らぎ自体を味わう


このような対比になります。


このことから、三層コンフリクト法は成長や自己受容に適した手法だとわかっていただけるかなぁと。

また、この手法を使うとプロットの自由度が格段に広がります。


あらためて僕が前稿で挙げた作品たち……。何度も決意しては揺らいでるし、それが面白みになっていますよね?


僕はこれらを、『静的な作劇法』で捉えるのをあきらめ、『三層コンフリクト法』という、いわば力学で捉えるべきだと思ったのです。


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