幼馴染。

林林<ばやしりん>

第1話

 日は真上を向いている。

 俺は現役DKこと、土岡しゅうだ。

 水無月。春を過ぎ、いよいよ夏への挨拶を告げる。

 高校ではいよいよか、と屋上でご飯を食べるカップルも増えた。

 

「そんなことで、わざわざここで食べるの?」

 

 そうまたか、と呆れた顔で言うのは高坂みやびだ。

 

「ああ、もちろん。カップルって思われたらどうするんだ。」

 

 みやびは簡単に言えばマドンナだ。街で歩けば10人中7人は二度見する。そんな容貌だ。

 

「もう、なんで思われたくないの?」

 

 そんな高校のマドンナと称されるみやびはむすっとしている。まるで、周りからカップルと思われたい言い様だ。

 

「いや、こんな美人さんに変な虫がついているとでも噂になれば、世の男から追撃されるぞ。」

 

「いや、幼馴染とか言い訳できるでしょ。」

 

 俺とみやびは巷で言う幼馴染だ。故にここまで仲が良い。嬉しい限りだ。

 

「だとしてもだな、まあいい飯食うぞ。」

 

 そう言って、その場に座り込んだ。

 

「ホントにここで食べるの!?」

 

 みやびは驚いていた。仕方がない。なんせ、ここは校舎の裏側。ジメジメとした雰囲気で誰も近寄らない。飯を食べるなどもってのほかだ。

 

「そんなに嫌か?周りから気づかれないし、日焼けしないし、全然良くね?。」

 

 日焼けしないと言ったのは女の子の心もわかってるぜ☆という粋な計らいだ。

 

「仕方ないなー、明日は屋上ね?」

 

「まあいいよ。」

 

 了承しちゃった。屋上のヤツらも交際相手に夢中でみないだろう。うん、そうだろう。というか、単に恥ずかしいんだよな。俺だって、できれば早く告白して屋上に行きたい。

 俺とみやびはお弁当を開けた。

 

「お、なんかうまそうなの入ってるじゃん。」

 

 みやびの弁当の中に、アンパ◯マンのポテトが入っていた。俺は自慢ではないが、アンパン◯ンがだいすきだ。

 

「でしょ!。昨日、しゅうがこれ切らしたって落ち込んでたから入れてきちゃった。」

 

「天使か。」

 

「それほどでも。」 

 

 みやびは笑顔を浮かべた。その笑顔が"可愛い"と思ってしまったのはここだけの秘密としよう。

 

「じゃあくれ、なんならこのハンバーグと交換でもいい、」


そう言い、俺特製のハンバーグを指した。

 

「じゃあ、あげるけど一つ条件ね。」

 

「と言いますと?」

 

 どんな質問が来るのか、ス◯バ奢れくらいならいいがスマホ買えとかは無理だぞ。

 

「私に、あーんされて食べること。」

 

 調子に乗っているのか、悪戯な笑みでそう言ってきた。

 ならば受けてやろうじゃないか。ちと、恥ずかしいのは我慢我慢。

 

「わかった。あーん。」

 

 そう言って俺は口を開けた。

 食べる準備は満タンだ。

 

「え、ちょ、え?!」

 

 みやびが一変、動揺している。顔も熱を出したくらいには赤くなっている。

 

「あーん。」

 

 ここで追い討ちだ。

 俺は口を広げて早く入れろよと言わんばかりに催促した。

 

「あ、あーん。」

 

 みやびはそう言って、俺にア◯パンマンポテトを食べさせた。

 うむ、今になって気づいたが、何をやっているんだ俺は?。

 こんなこと、屋上のカップルと変わらないじゃないか。

 しゅうも、ひどく赤面してしまった。

 

「うん、やっぱり、アンパンマ◯ポテトは最高だぜぇ。」

 

 とりあえず、気持ちを紛らわすために、◯ンパンマンポテトの良さについて、咆哮をあげておいた。

 

「全く、子供なんだから。」

 

「うまいものには敬意を払うべきだ。」

 

 俺はふとみやびを見た。

 箸が進んでいない。

 ん、待てよ、これって間接キ——これ以上はやめよう。

 考えてるだけで赤面しそうだった。

 そうしていると、みやびが思い切ってその箸でご飯を食べた。

 赤面している。

 

「これって、間接キス、だよな。 。」

 

 言ってしまった。なんで俺の口は勝手に喋るんだ。このバカバカ。

 

「う、うんそうだね。」

 

 お互いに意識し合ってしまった。

 そこから会話はなく、箸をすすた。

 チラチラと見合う。時々、目が合い互いにそらす。

 

「あ、そう言えば!。昨日発売の漫画読んだ?。」

 

 気まずい雰囲気の中、先に口を開いたのはみやびだった。

 

「お、うん。読んだよ。まさか主人公が————」

 

 そんな他愛もない話が、続く。

 ついつい、盛り上がって、気づけば弁当を食べ終わってしまった。

 

「それじゃあ、また後で。」

 

「うん、じゃあ後で!。」

 

 俺と、みやびは組が違う。

 だから、ここから二時間は離れ離れだ。

 さよならを告げ、二人は教室に戻った。

 

 (全く、何をやってるんだ俺は。)


 もしも、あの時恥ずかしがらないで、「好きだ。」と言えたら。

 そんなことを頭の中を駆け巡る。

 こんな日々が毎日続いている。

 幼馴染という、近くて遠い距離感。

 そんな距離感の中でいつになったら、言い合えるのか。お互いに想いが同じだと気付けれるのか。

 二人がすれ違いに気づくのはもっと先の話である。

 

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幼馴染。 林林<ばやしりん> @hayashi_rin

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