第3話 ワンネス・リレーションシップ 〜愛は競争ではなく調和〜 紗良の物語
紗良(さら)は、カフェの窓際でコーヒーを飲みながら、スマホの画面をぼんやりと眺めていた。
メッセージアプリには、恋人の悠真(ゆうま)からの短い返信が並んでいる。
「今日は仕事が長引く。先に寝てて。」
「週末、ちょっと予定入った。また今度ね。」
以前は何気ないメッセージでも、今は冷たく感じる。
付き合って五年。最初の頃のように、お互いを気遣い合う時間は減り、どこか惰性のような関係になっていた。
「私たち、なんでこうなっちゃったんだろう…」
心の中で問いかけるが、答えは見つからない。
ふと、カフェの棚に並ぶ本の中で、一冊のタイトルが目に留まった。
『ワンネス・リレーションシップ 〜愛は競争ではなく調和〜』
紗良は無意識にその本を手に取り、ページをめくった。
「パートナーは所有するものではなく、共に成長する存在である」
その一文に、胸がざわついた。
週末、紗良は久しぶりに悠真と話がしたくて、彼の家へ向かった。
「最近、忙しそうだね。」
ソファに座りながら、紗良は慎重に切り出した。
「まぁな。でも、お互いに仕事があるし、仕方ないだろ?」
悠真はソファに深くもたれ、スマホを片手に答えた。
「……なんかさ、私たち、ただ一緒にいるだけになってない?」
紗良の言葉に、悠真の指が止まる。
「え?」
「もっと話したいし、もっとお互いを知りたい。でも、最近は、どっちが忙しいとか、どっちが正しいとか、そんなことばっかりになってる気がする。」
悠真は少し眉をひそめた。
「別に、俺はそんなつもりないけど?」
「でも、私たち、どこかで“勝ち負け”みたいになってない?」
「勝ち負け?」
「どっちが折れるか、どっちが我慢するか、どっちが正しいか……。そういう関係になってる気がするの。」
悠真は黙り込んだ。
「私、最近ある本を読んだの。そこに、“愛は競争じゃなくて調和”って書いてあって……」
「調和…?」
「お互いを所有しようとしないこと。相手をコントロールしようとしないこと。そして、一緒に成長すること。」
紗良の声は自然と熱を帯びていた。
「私ね、悠真ともっと話したい。ただ、“付き合ってる”とか“恋人”っていう枠組みだけじゃなくて、お互いにとって、もっと意味のある存在になりたいの。」
悠真は静かに紗良を見つめた。
「……俺、最近仕事ばっかりで、紗良の気持ちをちゃんと考えてなかったかもな。」
そう言って、小さく笑った。
「正直、“どっちが折れるか”って考えたことはあった。でも、それって変な話だよな。だって、俺たちチームだろ?」
その言葉を聞いた瞬間、紗良の心にふっと温かいものが広がった。
それからの二人は、これまでとは違う付き合い方を始めた。
・お互いのスケジュールを尊重しながら、一緒に過ごす時間を意識的に作る。
・意見がぶつかったときは、“勝ち負け”ではなく、“どうしたら二人にとって一番いい形になるか”を話し合う。
・「こうしてほしい」と要求するのではなく、「私はこう思う」と伝える。
少しずつ、関係が変わっていくのを感じた。
ある日、紗良は悠真から思いがけない言葉を聞いた。
「最近、紗良と話すのが前より楽しい。お互いに“こうあるべき”って決めつけずに、ちゃんと向き合えてる気がする。」
「私も、今の関係の方が好き。」
紗良は微笑んだ。
愛は、“持っているか失うか”のものではなく、“一緒に育てていく”もの。
そう思えたとき、二人の関係は本当の意味で変わり始めていた。
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