第9話 最初の《決闘》(5)
◇◆◇
わからないですわ。
時雨零さん、あなたの思考回路がまるで理解できません。
読めない──ここまで読めない人間は初めてですわよ。
「──時雨零さん」
なら一度、揺さぶりをかけて見ましょうか。
「私は次、パーを出しますわ」
そう、これだ。
これですわ。
この『揺さぶり』。
この行為は、通常のジャンケンでは大抵の場合で意味を持たない。意味を持つように扱われている時もありますが、全くもって意味がない。
例えば通常ルールのジャンケンで、相手が次グー出すぞ、と申告してきたとしましょう。
この場合、あなたが考えることは、相手が次、何を出してくるのか、ですわね。
申告通りにグーを出すのか……はたまたチョキを出して、信じた自分を裏切るつもりなのか──それとも裏を読んでパーで攻めて来るのか。
結局、3択。
グーかチョキかパー。
全く変わらない。
意味がない行為なのです。
しかし、今、この場面においては──
『確認』という大きな意味を持つ。
「………………」
前を向いて、彼の顔を見る。
先見た時と変わらない様子で、ただ目を瞑り虚無に思いを馳せていた。
時雨零さん。あなたの作戦、もしかして──
◆◇◆
「策士やな」
跳梁さんが横でつぶやきました。
「え?」
ボクはその言葉の意図を理解できず、咄嗟にそう漏らしました。
「佐々木薔薇鳴子──今彼女がやったことを見たか?」
「ええ、そりゃあ見ましたけど。見ました、って言うか聞きましたけど」
「『揺さぶり』に言ったな」
「そうですね。でも、ジャンケンに『揺さぶり』は無意味なんじゃないですか?」
「大抵の場合──99%の場合ではそうだ。でも今あいつらがやってるのはただのジャンケンじゃあない。特殊中の特殊。特例中の特例。例外中の例外さ」
「三つは流石にダレますよ」
「うっせーな。思いついたんだから言っちゃってもいいだろ、別に悪くない感じだったじゃねえか」
細かいところにツッコむ癖が出ちゃいましたか。テヘペロ。あ、なんかテヘペロってペネ◯ペと語感が似てますね。
「そう、この場合、相手の作戦を読むための行為として、『揺さぶり』は大きな意味を持つ」
「説明、聞いてもいいですか」
「言われなくてもそうするつもりさ。──パーを出すぞと揺さぶられた時、このゲームの特性上、ただでさえ出しにくいグーがより出しづらくなる。言葉通りパーを出してきて負けたら、いかにも馬鹿みたいだしな。つまり、大抵の人間においては、この場面でグーを出すやつは少ない。と言うかほとんどと言っていいほどいないだろうな、パンピーの中には」
またパンピー……
好きだなあ、パンピー。
「ここでグーを出すなら、何か『作戦』や『考え』がある他考えようがない。それに佐々木薔薇のねーちゃんは、おそらく時雨零のやっている作戦についてある程度の目星がついてるんだ。そうなってくると、この揺さぶりにはその予測が合っているかどうか、その『確認』と言う大切な意味を持つことになる──そう言うわけだ」
「なるほど、つまり、佐々木薔薇さんの予測が正しければ、先輩はグーを出すと?」
「正確にはグーを出す可能性があるってだけだけどな。結局、グーかチョキかパーの3択であること、その本質は変わらない。
しかしこうなった場合では、グーを出す可能性は極めて低くなるわけだ。
だけど、佐々木薔薇の考え──多分俺の予測とおんなじだが──それが当たっているのであれば、三分の一、普段と変わらない確率で時雨零はグーを出す。確実ではないが、そうなれば、確認ができる」
「…………その、跳梁さんの考える先輩の作戦ってなんなんですか?」
「教えたげない」
「なんでですか!」
「決まってるだろ?」
跳梁さんはニヤリと笑った。
普段からニヤリとしているせいでもうニヤリのレベルを軽く超えていたけれど……
「そっちのが面白いからさ」
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