第2話

 顔色が不健康な鈍い白さを帯びていて、猫背である姿勢もあって中年以降だと思って遠くから眺めていましたが、実際は二十代後半のようでした。


「シシュウです」


 当時ロックに打ち込んでいた僕でしたが、そのきっかけが詩でした。

 いつでも大学ノートとペンを持ち歩き、毎日のように新しい詩を書いていたので、彼女が「詩集」と言ったことにたいしても素直に受け止めました。


 僕は、他人の詩は一切読まなかったのですが、同志を応援したい思いと、ひょっとしたら僕は彼女に恋する予感がしたのかもしれません。一冊買いました。

 僕の渡す硬貨を受け取った彼女の手は、力がなく、心持ち震えていました。

 今にも枯れてしまいそうな彼女を心配したのですが、若かった僕は気の利いた言葉を何一つ持ち合わせていませんでした。


 僕も詩を書くんですよ、くらいは言ったかもしれませんが、彼女からは「ああ、そうですか」と返されたきりだったのでしょう。

 会話らしい会話もできないまま僕は立ち去ることになりました。

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