第15話 物語はまだ続く…でも今度こそ安定?
その翌日、王宮の広い廊下をリリアが悠然と歩いていた。
騎士団長の真新しいマントは魔導紋が刻まれていて、軽やかながらもしっかりと防御力を持つらしい。
すれ違う兵士が「団長、お疲れさまです」と敬礼し、リリアは会釈を返す。
「まさか私が騎士団長になるとはね。悪くないポジションじゃない。お姫様キャラはもう飽きてたし」
春人はその後ろをついて歩き、「やっぱりリリアは強い立場が似合うよな」と苦笑する。
するとリリアは振り返って、少し照れたような顔をした。
「まあ、昔のわがまま姫みたいな振る舞いは反省してる。騎士団長として、それなりに人を引っ張らなくちゃいけないからね」
「俺も適度に協力するよ。なんたって調整者だからさ。世界がまた変な方向に行かないように、気をつけておく」
ヴォイドは一方で、王宮に招かれた“外部勢力の代表”として、国王との会談に挑むらしい。
「大戦とか大規模な戦闘にはしたくないから、意見交換程度で済めばいいな。おれの部下も気が強いが、平和的解決が理想だ」
モブ子は研究所で魔導装置の改良を進めているようで、今日も朝早くから実験に取りかかったらしい。
「いつか私が発明した魔導具が、騎士団を支えたり、人々の暮らしを便利にしたりできたらいいなあ」
そんな前向きな声が、朝の廊下で聞こえてくる。
「いろいろあったけど、今回は本当に長続きしそうだね」
春人が小さく安堵していると、リリアはちらりと視線を向けて言葉を続けた。
「ただし、メタ的な力や作者の存在は消えていないはずよ。もしまた誰かがいらない要素を詰め込みまくったら、どうなるかわからないわ」
「そうだな。今もモブ子が“もっと活躍したい”とか言い出して、変な事件を引き起こさないかちょっと心配だ」
冗談めかして笑い合う二人だが、ヴォイドが冷静に口を開く。
「まあ、次はそうならないように、うまくやりくりしよう。俺たちが多少わがまま言ったって、春人が調整役をしてくれるだろうし」
「そりゃ期待が大きいな。俺はブラック企業勤めだったんだぞ。交渉力なんて適当に使えるわけが……いや、まあ頑張るよ」
春人は苦笑いを浮かべつつも、気持ちがどこか晴れやかだった。
幾度となく世界を書き換えてきたが、今度こそキャラ同士が適度な距離感で協力できそうな予感がある。
騎士団長リリアは誇り高く、外部勢力リーダーのヴォイドは自分の信念に忠実に、研究員モブ子は新しい技術を探求している。
「みんながバランスを取れれば、そこそこオリジナルのファンタジー世界として存続していけるんだろうな」
春人は静かにそうつぶやいた。
廊下の先には大きな扉があり、その向こうは王城の会議室。
そこに待つであろう国王や大臣たちに、リリアがどう対応するのか、ヴォイドがどう絡んでいくのか、モブ子の研究がどう活かされるのか。
先の展開を想像するだけでも、もう破綻だらけだった前の世界とは違って楽しめそうだ。
「これなら、思う存分冒険もできるな。魔物がいるなら適度に討伐して、でも世界がめちゃくちゃになるほど乱戦しない。平和を守りつつ発展もできる、いいじゃないか」
リリアは扉の前で足を止め、「ありがとね、春人。あなたがいなかったら、またいつものように作者にクレームつけて世界崩壊させてたわ」と小さく笑う。
春人は「いえいえ、こっちこそ騒ぎに巻き込まれて大変だったさ」と肩をすくめる。
ヴォイドは軽く微笑しながら、「まあ、おれたちが飽きなきゃいいんだがな」と皮肉めいた口調を残す。
「大丈夫よ。しばらくはこの世界を楽しんでみようじゃない。騎士団長として、ヴォイドの勢力との兼ね合いも含めて、物語を動かす余地はたくさんあるんだから」
リリアがそう宣言すると、モブ子が向こうから走ってきて手を振った。
「団長、王様が呼んでますよ! ヴォイドさんも一緒にって。国の安全保障について話し合いたいとか!」
「よし、いっちょ行くか」
ヴォイドは胸を張り、リリアは一瞬緊張したように息をのんだ。
春人は「じゃあ、俺は調整者としてサポートするよ」と微笑んでついていく。
こうして、新しいファンタジー世界の幕が開いた……というより、“落ち着いた”新章が始まったようだ。
そこそこ剣と魔法、ちょっぴり魔導技術、キャラクターたちの役割もしっかり設定されている。
少なくとも、今度こそは大きな破綻を招かずに、ちゃんと物語を進行できるはず――春人は心の中でそう願い、扉の向こうへ足を踏み出すのだった。
作者の作った異世界設定が気に入らない 三坂鳴 @strapyoung
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