第4章 “TSファンタジー&ハーレム祭り”
第10話 転生し直したら…性別まで変わってる?
春人はまばゆい閃光が消えた直後、地面のはずだった足元がふわふわと浮いているような感覚に戸惑っていた。
そっと両手を見やると、白くてほっそりした指先が視界に入り、思わず固まってしまう。
「え、な、なんだ……手がすごく小さいし、なんでこんなにツルツル……?」
首筋をこわごわさすってみると、するりと指が滑る。
恐る恐る胸元へ目をやると、確かに女性らしいラインが存在していて、頭の中が一瞬真っ白になる。
「なんで俺、女になってるんだ……!?」
混乱の声を上げる春人(♀)の隣では、リリアが短い髪をかき上げながら苦笑いを浮かべていた。
彼女の背は高く、男物のタイトなジャケットを着込んでいる。凛々しい顔立ちは、どう見ても青年にしか見えない。
「どう見ても女性化してるじゃない。ふふ、私だってこれ、男になっちゃったみたい。しかもなかなかのイケメンっぷりよね。作者、悪ノリしすぎでしょ」
「本当に性転換してるのか……」
春人(♀)が思わず頭を抱えてしまうと、少し離れた場所でヴォイドが悲鳴に近い声を上げた。
彼の体は明らかに少年の姿で、マントも短くされ、袖もだぶだぶだ。
「こ、これって…少年化? 俺、渋い雰囲気が良かったのに、こんな可愛い系の外見は想定外だ……悪役オーラが消えてしまうじゃないか」
モブ子はといえば、なぜかいつも通り地味なまま。
自分の体を点検しているが、パッと見では特に大きな変化がない。
思わず彼女は帽子を脱ぎ、首をひねる。
「私だけ変わってないみたい。もしかして…モブ枠だからTSから外されたんでしょうか。なんて理不尽……」
周囲を見回すと、パステルカラーの建物が立ち並び、空にはやたら可愛らしい翼の生き物が飛んでいる。
どこか絵本のようなメルヘン世界に迷い込んだようだ。人々の服装もふわふわとした色使いで、耳になじむゆったりした音楽が町中に流れている。
「すごく可愛らしい世界観だけど、こんな所でどう振る舞えばいいんだろう。とりあえずヒールが歩きづらい……」
春人(♀)がヨロヨロと歩を進めると、リリア(♂)が彼女を支えるように手を貸す。
それだけでも通行人が「キャー!」「あの男性、優しい…!」などと囁いている。
「なんだか私、男の姿だとモテモテじゃない? これは新鮮だわ。せっかくだしハーレムでも作ってみようかしら?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。いきなりハーレムって…? しかもリリアが男になって、女性キャラを侍らせるとか本当に大丈夫なのか?」
春人(♀)が制止しようとすると、ヴォイド(少年)はむくれたように頬をふくらませている。
「おれは少年にされて、悪役感も威厳も吹き飛んだぞ。何をすればいいんだ。戦闘シーンなんてイメージしづらいじゃないか」
「私だって、こうなるならいっそ可愛い美少女にしてほしかったですよ。もしくは男体化でもいいから、何か劇的に変わった感がほしいのに……」
モブ子がとぼとぼつぶやくのを横目に、リリア(♂)は町の大通りへ大胆に踏み出す。
男性姿になっているせいか自信に満ちあふれており、あちこちから「かっこいい…!」「どこの王子様…?」と黄色い声が上がってくる。
「やっぱり男主人公っぽく振る舞うってのは楽しいものね。ほら、春人。女体化だって楽しんでみなさいよ」
「そんな余裕ないんだけど…もう、どうなるんだよ…」
ヒールに苦しむ春人(♀)はうなだれながらもリリア(♂)を追いかける。
ヴォイド(少年)は少年化に落ち込み、モブ子は地味なままで居場所がなく、4人そろって奇妙なやり場のない気持ちを抱えていた。
しかもそんな4人の姿は、町の人々からしてみれば相当目立つようで、早くも慣れない男姿のリリア(♂)と女体化の春人(♀)を取り囲む人だかりができかけている。
春人(♀)の方へも「お姉さん、よかったら一緒にお茶でもどう?」と声をかけてくる男性が現れ、驚きと困惑で顔をこわばらせてしまう。
「え、ちょっと待って……おれ、男なんだけど——あ、いや、今は女か……どう返事すればいいんだ」
相手の男性は「気にしないで。素敵な方には声をかけたくなるものさ」とウィンクしてみせ、春人(♀)は青ざめた表情でリリア(♂)の背後に隠れようとする。
だがリリア(♂)が「ほら、せっかく女になったんだから楽しく交流しなさいよ?」とからかうものだから、さらに頭を抱えるばかりだ。
一方のヴォイド(少年)も、どこからか現れた妖艶な雰囲気のお姉さま方に囲まれていた。
彼女たちは少年の可愛らしい姿を見つめながら、「まあ、なんて愛らしいの…!」「こういう小動物系は大好物なのよね」と恍惚の笑みを浮かべている。
「お、おれに近寄るな……っ、ショタコンってやつか? ちょ、止めて!」
肩を抱こうとするお姉さまの手を振りほどこうとするが、なまじ見た目が可愛い少年だけに相手はますます興奮気味で、ヴォイド(少年)は恐怖に足をすくませるしかない。
「おれは悪役希望なんだ、こんなショタ扱いされても困る!」と心の中で叫ぶも、むしろ相手には可愛い反抗としか映っていないらしい。
「おい、ヴォイドが危なそうだぞ……?」
春人(♀)が気づいて助けに入ろうとするが、今度は三人ほどの男がいきなり背後から声をかけてきて「ねえ、お姉さん、さっきは俺たちと会話してくれなかったじゃない」と詰め寄る。
彼らは女性姿の春人(♀)に目をつけたようで、「こんな美人さんがいるなら、ほっておけない」と言わんばかりに囲んでくる。
「ちょ、ちょっと離れてください…! おれ、中身は男だから……」
「中身がどうとか関係ないよ。美しい花には素直にアプローチしたいものさ」
まさかの逆ナンパに春人(♀)は目を回しそうになり、右往左往してしまう。リリア(♂)はそんな騒ぎに気づき、少し離れたところでお姉さま方に絡まれるヴォイド(少年)を見て、「まあ、とんでもない世界に来たわね」と苦笑いを浮かべるしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます