続スーパーGTに女性ドライバー登場パート3
飛鳥竜二
第1話 WEC第1戦 カタール
朱里は2月のスーパーフォーミュラのテストを終えて、中東カタールにきていた。今年、朱里のレース環境は大きく変わった。
スーパーGTとWECそしてSF(スーパーフォーミュラ)の3つをかけもちすることには変わりはないのだが、WECの第2戦のイモラはSFと同日になったので、チーム副会長の中須賀と監督の小田の了解をもらい、SF優先ということにしてもらった。昨年SFで本来の力を出せなかったので、国内レースを優先したいという願いがあったからである。WECにはサブドライバーのエイミーがいるので、朱里が都合悪い時はカバーできる態勢になっている。SFにはサブドライバーがいないのである。
そして大きな変化は山木が引退したことである。山木はスーパーGTのチーム監督になった。今までもエースドライバーとしてチームの運営に関わっていたので、特に違和感はなかったが、朱里のチームメートは同じTMRのチームにいたアルジとなった。フランス国籍だが、母親が日本人なので日本語に問題はない。ただし、走りは荒っぽい。
一番の違いはSFである。山木が引退してしまったので、朱里の属するチャレンジチームは1台体制になってしまった。本来は2台体制の方がデータの積み重ねができるのだが、TMR全体では5台体制になるので、その点では問題はなかった。そして監督には野島パパが就任したのである。かつてのF1レーサーであり、朱里をここまで育ててきた実績がある。TMRとしても野島パパの力を認めていたのである。それと、SFで2台体制のチームには女性1名をドライバーにしなければならないという規定ができた。スーパーGTで女性が進出してきたので、SFにもその波がやってきたのである。来年からはF1にも女性枠ができるという話がもちあがっている。時代は朱里にチャンスを与えてくれている。ただし、今年からSFにチャンピオンの坪江の奥さんである坪江美香が出場することになっている。同じマシンに乗る最大のライバルである。ちなみにスーパーGTのチャンピオンマシンには坪江夫妻がのることになっている。
2月末、カタールは相変わらず暑い。ホテルの中はエアコンがきいていて涼しいぐらいだが、外にでるとカー!と暑い。でも、日本のような蒸し暑さはないので、日よけさえしっかりしていれば、問題は少ない。朝にマネージャーの凛さんに日焼け止めを塗りたくってもらった。朱里も凛さんのいたるところに塗りたくり、二人で笑いながらやっていた。他の人が見たら変な二人にしかみえない。
予選は出番なし。本予選はミックが走り9位で通過。ハイパーポールはチーム監督兼任の小田が走り、7位のポジションを得た。トップのF社からは3秒落ちである。
BopはT社にとって、とても厳しい。直近3レースの結果で決まるのだが、F社との重量差は28kgもある。最軽量のC社のマシンとは30kgもある。それに、ドライバーバラストがあり、軽量級のドライバーだらけのT社は20kg近いバラストを積むことになった。これで上位に入るのは並大抵のことではない。
予選後、チーム監督の小田がドライバーを集めて、
「今回は厳しいレースになると思う。まさに耐久レースだ。順位よりもミスなく走ることをめざそう。ノーミスは難しいが、極力減らすことを考えよう。7号車は10スティントでいく。8号車はガスを少なめにして12スティントでいく。8号車は一人2スティントを2回ずつ。7号車は3スティントとラストはオレがいく。タイヤは32本しか使えないので、どこかで2スティント走らなければならない。どこでタイヤを温存するかはレースの状況を見て決めることになる」
ということで、朱里は3番目の出走。午後6時からの2時間と午後10時からの1時間を担当することになった。最初の4時間はモニター観戦である。
シートに座ってモニターも見ていると、リザーブドライバーのエイミーが隣にやってきた。次戦のイモラはエイミーが出ることになっている。以前GT3で走ったことはあるがハイパーカーでは初めてとなる。少し不安があるようだ。そこで、エイミーが私に聞いてきた。
「 What is important for female drivers ? 」
(女性ドライバーにとって大事なことは?)
「 That's a pretty big question . I don't think there's any difference between men and women . Even sitting like this I'm stretching . And don't drink too much . It would be a pain if you had to go to the toilet while driving . 」
(ずいぶん大きな質問ね。女性も男性も変わりはないと思うけど・・体調の維持かな。こうやって座っていても、ストレッチをするようにしているわ。それにドリンクを飲み過ぎないことね。運転中にトイレにいきたくなったら大変よ)
「 That's right . How's the driving ? 」
(そうですよね。走りはどうですか?)
「 Uhn , it depends on the team's strategy . Most of the time it's in the instruction of keeping , so there's no need to push yourself , when overtaking a GT3 , don't push yourself too hard . 」
(うーん、チームの作戦にもよるからね。ほとんどはKEEPの命だから、無理をする必要はないんだけど、GT3を抜く時は無理はしないことね)
「 That's right . I was scared when I was overtaken in the corners . 」
(そうですね。コーナーで抜かれるとこわかったです)
「 When pulling out , straight is the basic rule . And conserve your tires . In the
second half , there will be a lot of debli , so the line keep will slow down so as not to pick up on them . No drifting either . Otherwise the tires won't last . 」
(抜く時はストレートが基本。それとタイヤの温存ね。後半はデブリが多くなるから、それを拾わないようにラインキープが原則。ドリフトもしない。そうしないとタイヤがもたない)
「 It's the same with the GT3 . 」
(それはGT3でも同じです)
「 Yes . All right . You have been chosen , so be confident . 」
(そうよ。大丈夫よ。あなたは選ばれたんだから自信をもって)
「 Yes , thank you very much . 」
(はい、ありがとうございます)
と言って、二人でモニターに見入った。
午後2時、スタートドライバーはニックである。ルサイルサーキットは5419mの長さでやたらと右コーナーが多い。レイアウトは野球のグラブみたいな形になっている。それでチームは左タイヤをハードにし、右タイヤをミディアムにした。他のチームは全てハードにしているところもある。解説者がチーム副会長の中須賀に
「夜になって冷えたら4輪ともミディアムですか?」
と聞いていたが、
「それはバクチですね」
という返事がきた。
午後3時、1回目のピットインである。ミックは6位にあがっていた。
午後3時50分。ミックがピットイン前のアタックでちょっと無理をした。右コーナーではみだしてスピン。10秒ほどタイムをロスした。
午後4時、小田にチェンジ。一時13位まで順位を落とすが、持ち前の走りで前のマシンをとらえる。1台1台確実に抜いていく。彼にはKEEPの命はでていない。チーム監督だから彼の判断で決まる。
午後5時、タイヤ交換なしにピットアウト。小田は7位にあがっている。8号車は早めのピットインが功を奏し、5位を走っている。平田は予選時にスピンを喫し、17位スタートだった。よくぞここまで順位をあげてきている。
小田は6位のA社とバトルをしている。スリップストリームにつき、背後からA社にプレッシャーを与えている。3周ほどでA社はコーナーでオーバーランしていた。小田の勝ちである。
午後6時。いよいよ朱里の出番だ。順位は3位にあがっている。朱里の仕事はこの順位のキープだ。幸いなことに後ろには8号車の平田がついていて、後続車のガードをしてくれた。
午後6時半。GT3のマシンがトラブルを起こしSC(セーフティカー)導入となった。これで後続車との差がつまる。10分後、SC解除の直後、とんでもないことが起きた。トップを走っていたC社のマシンが追突事故を起こしたのだ。トップのマシンの加速が鈍く、2位のC社が後ろからぶつかってしまったのだ。同じチーム同士のトラブルで優勝の可能性があったのに、2台ともピットインし、リタイアとなった。朱里はそのすぐ後を走っていたので、デブリを踏んでしまった。タイヤがおかしい。走っているとガタガタする。だが、SC中はピットインできない。SCの後ろで我慢の走りしかできなかった。3周走ってピットレーンオープンになったので、緊急ピットイン。
タイヤを交換し、コースにもどると10位に落ちていた。トップはF社のマシンである。ポールをとったマシンがここであがってきた。
午後7時半、緊急ピットインがあったので、早めのドライバーチェンジ。朱里のせいではないがポジションを落としてしまい、肩をおとしてピットにもどった。エイミーと凛さんがなぐさめの言葉をかけてくれる。すると小田が寄ってきて
「朱里、おつかれさん。次のスティントは90分を覚悟しておいてな。状況によってはアタックありだからな」
という言葉で落ち込んでいられなくなった。
午後9時半。またもや朱里の出番となった。順位は7位にあがっている。
午後10時。他のマシンがピットインのタイミングで、朱里はここで5位に上げた。あとひとつポジションをあげたいが、なかなか抜くタイミングがつかめない。ましてやタイヤを温存しなければならない。4位のマシンは見えるのだが、間はつまらなかった。
午後11時。小田にチェンジ。朱里の出番は終わった。翌日の飛行機で日本に戻らなければならないので、ずっとレースを見守るわけにはいかない。凛さんの手助けで着替えと片づけに入った。
午前0時。本来は1812kmの距離レースのはずだったが、SC導入が多かったので、時間レースになってしまった。表彰台はF社の独占。I国国歌が高らかに演奏され、大声で歌っている人が多かった。T社は5位と6位。T社と同じようにBopが厳しいチャンピオンマシンのPD社はポイント圏外だったから、厳しい状況の中ではまずまずの結果となった。監督の小田は喜んではいなかったが、それなりのポイントを獲得できて安堵はしていた。
次戦は、1週間後の鈴鹿でのSFである。鬼監督になった野島パパが待ち受けている。時差ボケを早く直さないといけない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます