通用
小狸・飯島西諺
短編
私は、
というのも、「若いうちの苦労は買ってでも」した結果、潰れてしまった人間を知っているからだ。
それは、私自身である。
若いからという理由で、無理と無茶をしまくった。自分の上限を考えず、他人の上限に合わせて、一生懸命、評価されるために努力し尽くした。それこそが、社会に通用する人間になることができる一番の近道だと思っていたからである。社会に通用。世の中の役に立つ。たとえそれが歯車であっても。この時の私は、そう思っていた。
結果。
私は、重い精神疾患になった。
朝起きて、ベッドから起き上がることができないどころか、一日中寝て何もできることなく過ごすことになった。
そんな私を何よりも突き動かしたのは、焦燥感であった。
社会の役に立てていない。
世の中の歯車になることができていない。
私は、駄目な人間だ。
早く、ちゃんとならなければ――ちゃんとしなければ。
通院に通院を重ね、薬の量だけ増えていく。
SNSを見ると、皆は旅行に行ったり、結婚したりしている。
私は、最早人の目が怖すぎて、外出することもままならない。
どうして私が、こんな目に合うのだ。
「若いうちの苦労は買ってでもしろ」ではないのか。
「辛いことを乗り越えてこそ今がある」と言っていた上司や先輩の言葉は、嘘だったのか。
だから私も、辛い仕事や厳しい現実を乗り越えて、「今がある」と言えるような、そんな社会人にならなければいけないと、思っていた。
それは、今も同じである。
まだ、私は何も乗り越えることができていない。
まだ、私は何も達成することができていない。
そんな自分を、認めることができなかった。
やがて自傷行為をするようになった。わざと怪我をするようになった。自分の全てが憎かった。自分なんて死んでしまえばいいのにと思った。上手くいかないのは自己責任、全ては自分のせい。駄目なのは自分が悪い。病気になったのも、全部私が劣っていたから、足りなかったから、不足していたから。駄目な自分なんて、生きている意味がないのだ。
それを伝えたら、主治医から入院を勧められた。
そして、今。
精神病棟のベッドの上で、私は生きている。
社会に通用しない人間になった自分を。
(「通用」――了)
通用 小狸・飯島西諺 @segen_gen
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