僕たちの恋愛観念はどこか狂っている

かごのぼっち

凶器と狂気

 クラスメイト同士のカップルが出来たらしい。


 教室の中はその話でザワついている。聞き耳を立てているわけでもないが、どうやら一線を越えたとか言う情報が入って来た。何ならその内容まで聴きたくもないのに入って来る。


「(う)っせ!」(リア充爆発しろ!)


 別に誰に言うでもなく発した僕の言葉は、誰にも拾われることはなく何処かへ独り歩きして行ってしまった。


 僕はクラスでは目立たず、ひっそりと過ごしている。誰にも干渉されたくないオーラを出し続けているのだ。その為、友達も作らず、彼女なんて無縁の話だ。別に羨ましいとも思わない。


 しかし⋯⋯。


 僕の躰の一部はそうではないらしい。めちゃくちゃ怒っていらっしゃる。寂しいのだろうか、慰めてやりたくても教室ではそれも敵わない。


「(ほん)っとに!」(リア充爆ぜろ!)


 席の後ろから何か聴こえて来た。それこそ呟くような細い女性の声だ。きっと僕にしか聴こえない。いや、もしかして僕に言ったのか?

 僕の後ろは誰だっただろう? 関心が無さ過ぎて名前すら思い浮かばない。


 気になった。


 気になってしまった。自分と似たような感情を抱いているであろう、その声の主を。


 振り向きたい。しかし、ここで振り向いたら負けな気がする。何か⋯⋯何かきっかけが欲しい。


「(く)っだらないわ。あなたもそう思うでしょう?」(あなたの呟きは聴いたわよ?)


 来た。


 きっかけだ。どうする!? いや、チャンスだろ!? ままよ!!


 僕は振り向いた。


「激しく同意する」(躰の一部を除いて)


 後ろの席に座っていたのは⋯⋯誰!? いや、すぐ後ろの席なのに顔も名前も解らない。こんなに影が薄い人物が僕以外に居ただなんて。

 前髪と眼鏡で顔は隠れ気味だが、小さな鼻と口元は可愛らしい。


 落ち着け。


 僕の一部よ。期待しても何もないからな?


「付き合ってすぐに関係を持つだなんて、全くもって信じられない!」(あんなことやこんなことをしまくっているだなんて! うらやまけしからん!)


「(ま)ったく同感だ。そもそも人なんて信用出来たものではないし、すぐに体の関係を持つだなんてリスクでしかないだろうよ」(体の一部は喜ぶだろうがな!)


「そうよ。あなた、男のくせにわかってるじゃない!? 少し見直したわ?」(男なんて躰の一部しか使い物にならないと思っていたわ!?)


「いや、君の方こそ女のくせに理解があるじゃないか?」(女なんてそっちの事ばかり考えていると思ってたよ!!)


 ⋯⋯。


 眼鏡の向こう側の表情は窺い知れない。如何にも硬派な感じの気の強い女性。僕は気の強い女性は好みではないが、この眼鏡の向こう側が気になる。

 眼鏡を外したら⋯⋯なんて事はないだろうか!? その豹変した顔を拝みたい。


 ⋯⋯。


 見た目は細くて私の好みではない。オツム弱いのに躰がへなちょこな男だったら、ただの残念ないきものだ。しかしこの制服の下はどうだろう?

 実は脱いだらガリマッチョなんて事

はないかしら? ビリビリに破いてズル剥けにしたい。


「「もう少し話さない!?」」((俄然興味がわいた!))


 と言うわけで僕たちはカフェに移動した。


「逆にだが⋯⋯」(建前なんてくだらない)


「ええ」(そうね)


「出会ってすぐにそのような関係に陥る場合があるとするならば、それは一体どんな場合だろうか?」(そんな都合の良い話への最適解を導き出そう)


「私は一目惚れなんて不確かなものは信じない。それに従うのであればもっと動物的な本能に従うのであれば納得だわね?」(そう、この欲望のままにあなたに貪りつきたい!)


「同感だ。だが、それが持って生まれた本能だと言うのであれば、それに抗う理性は何の為にある?」(仮にこの憤りを具現化した凶器を抑制できるものは?)


「仮に理性がそれを抑え込む事が人間性だと言うのであれば、その人間性こそが世の中の性犯罪を助長するものではないかしら? つまりどんな堅牢なダムであろうと永遠に貯め続ける事は、不可能だと思うわ? それが決壊と言う、つまり性犯罪と言う大惨事に繋がるのよ」(この躰の火照りをおさめるものは、もはやそう言った解剖学的なものだわ? 物理的に満足させてあげななければ気が狂ってしまいそう!)


「だが、そこには社会的な弊害がある。法に背けばこの社会から逸脱してしまうだろう。ならば同意の上であるならばそれは対外的に見ても許容されるだろうか?」(どうすればこの凶器を対外的に凶器と認めさせずに扱う事が出来るのだろう?)


 そうだ、答えはひとつしかない。


「「それが交際!?」」((もう我慢ならん!))


「僕と付き合いませんか?」(この聞かん坊の凶器を受け止めて欲しい!)


「私と付き合いませんか?」(服をビリビリに破いてあなたのアイデンティティを崩壊させたい!)


「「喜んで♡」」((自我崩壊ダム決壊寸前だ!))


 そのあとの記憶は定かではない。


 しかし


 翌朝、彼女の狂気に抗うことなく身を任せた結果、僕の凶器は凶器と呼べるものではなくなっていた。







       ─了─

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕たちの恋愛観念はどこか狂っている かごのぼっち @dark-unknown

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ