語裏夢誅-神だけがいない島-

双守桔梗

序章

1.とある島の因習と歴史【語】

 夏の新月の夜。とある島では十年に一度、深更に祭りが行われる。島の守り神であるきよと、五体の神使の祠を巡る祭りが……。


 白い着物と袴姿の、ほうと呼ばれる美しい女性が、下駄を鳴らしながら島の中をゆっくりと歩く。捧姫の手首と胴は縄で繋がれており、彼女の身体は微かに震えている。


 捧姫の前後左右には蔵面をつけた黒い着物姿の男が五人おり、松明の明かりを頼りに、彼女と共に祠がある方へと進んでいく。


 一つ目の祠に着くと、蔵面の男達は捧姫の両目をくり抜いた。叫ぶ捧姫を引きずるように、男達は次の祠へと彼女を連れて行く。そこでは捧姫の両耳を削ぎ、三つ目の祠では指を全て切り落とす。捧姫がどれだけ暴れようと、男達は無理やり四つ目の祠まで彼女を連れて行き、鼻を削ぎ落す。五つ目では舌を引き抜き、例え捧姫の命が絶えようと、最も大きな祠まで運ぶ。


 そこには島民全員が集まっており、彼らの目の前で捧姫の身体は炎に包まれ、骨になるまで燃やされる。


 捧姫に選ばれるのは大抵、少し特殊な能力を持つ女性や少女だった。

 最初の祭りで犠牲になった女性は千里眼が使えた。二度目の祭りでは治癒能力のある少女が選ばれるが、逃げ出した彼女が海に落ちた事で、代わりに多くの女性が犠牲になる。


 この祭りはおかしいと異議を唱え、捧姫に選ばれた少女や女性を助けようとした者達もいたが、裏切者として島民に消された。旦那に売られた女性はその憎しみから島の男達を利用して、祭りそのものを終わらせようとしたが、上手くはいかなかった。歪んだ愛と癖を持った男に目をつけられ、祭りの騒ぎに乗じて殺された女性いる。


 前回の祭りでは、四人の少年少女が島から脱出しようとするも失敗し、その半数が命を落とした。


 そしていつしか神使にも名前がつき、悪しき風習は島民の都合で更に捻じ曲がり、次の世代へと伝承されていく。また、時の流れと共に、不可解な出来事が起こるようにもなる。だが、島民達は原因を追究する事なく、『清祇様がお怒りだ』と騒ぎ立て、次の祭りで捧姫の人数を増やすだけだった。


 そうやって必ず誰かが命を落とす、恐ろしい祭りは既に百年以上も続いている。


 神だけがいない、このいしさら島で――。

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