身近のあいつ

@rapii3960

第1話

チリリリリチリリリリ


「…ん」


ああ、また朝か。

昨日は早く寝たのにまだ眠いな。

冬らしく、布団から出る顔が凍ったように冷たい。

布団をどかす。


「寒すぎるだろ…」


また意識が朦朧としているがいつものように支度を済ませ、リビングへと重い足を運ぶ。

カーテンを開け、日差しに目を細める。

いつものように朝飯を作り、いつものようにNEWSをつけていつものように食べる。


「今日は0℃を下回る気温となることが予想されており…」


まあ冬だしなと特に考えずにご飯をかきこむ。


「続いてのNEWSです。昨日の1人は未だに判明しておらず…」


「そりゃそうだよな」


今の日本では毎日一人が消えていく。どこの誰かも知らないやつが知らないところで消えていく。名前が分かれば儲けもの。知らないうちに消えていくなんて当たり前のことだ。


「俺が消えるなんてありえない」


国民全員が同じことを考えている。1億3000万分の1なんて計算するのにも滅入る確率だ。


「...」


誰も行ってらっしゃいを言わない。勿論、行ってきますも言わない。これもいつものこと。いつもの通学路を歩き、見慣れた校門を通り下足箱に向かう。


「お、おはよう」

「おう」


名前も覚えてないクラスメイトが挨拶してくる。

適当にあしらい乱暴に上履きを履き、教室のある3階へと向かう。


ガラガラガラ


乱暴に扉を開ける


カバンを乱雑に置き、椅子へと腰掛ける。

机に突っ伏していると直ぐにチャイムがなる。


「朝のHRを…」


退屈な時間が過ぎ、更に退屈な1限目がやってくる。


「寝るか」


目を開けると今は3限目。移動教室なのに誰も起こしてはくれない。


「はぁ…うざ」


人の心を持ち合わせていないアイツらに舌打ちをして支度をする。


「おい、刈谷何寝てんだ」


名前も知らない教師が注意するが、そんなの関係ない。もう学校には愛想を尽かした。もうどうでもいい。いっそ消えてしまえば…


一々学校で起きたことなんて覚えてない。気付けば帰宅路にいた。昼飯は何を食べたか、5限目はなんだったか、クラスメイトとは何を話したか、もうどうでもいいや。


鍵を開け靴を脱ぎ捨て家に帰る。夜飯は何食おう。毎日考えるのめんどくさい。


「コンビニでも行くか」


毎日のことだ。結局自炊はだるいし買って帰る。


「ありがとうございました」

「うす」


これが1日のまともな会話だ。


店員さんは大好きだ。分け隔てなく俺なんかにも優しく語りかけてくれる。


見慣れた帰宅路に袋を下げて帰宅する。

誰もいない家に帰り、夜飯を食べ風呂に入り寝る。毎日同じことの繰り返し。退屈この上ない。



1日を振り返っても何も無い。そんな今日も寝ればまた明日がやってくる。おやすみ…


…しかしここで【例外】が訪れる。


「…ん」


朝か。意識が朦朧としているが、それは分かる。そしてもうひとつ分かること、それはいつもの目覚ましが鳴らないということだ。


そしてもうひとつ分かること、それは…


「いつもの天井じゃない…」


病人のような台詞を吐き、辺りを見渡す。


「知らない場所、どこだここ」




「こんにちは、刈谷響さん。」


知らない男が何故か自分の名前を知っていた。

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