Satellite of love
青馬 達未
第1話
「ここは?」
どこを見渡しても、真っ白な白銀の世界。
帰り道も分からない。
「そうだ。私たち遭難したんだ。」
「今いる場所は電波も届かない、このまま進もう。
もしかしたらどこかにたどり着くかもしれない。」
「そだね。だいち」
足を踏み出すたびに、ぎゅっ、ぎゅっと雪音を立てる。
寒さで指先の感覚がなくなったそうだが、立ち止まるわけにはいかない。
しかし、体力はもう限界に近い。
足が重くなり、意識も朦朧としてきた。
「やっぱり、少し休もう…」
「みどり、大丈夫か?」
そういいながら私はその場に座り込んだ。
「あとどれくらいで、というより本当に助かるのかな?」
不安が込み上げてきた瞬間に追い討ちをかけるように、
また、吹雪出した。
「また降り始めた。」
動いていれば、最低限体温は保っていけるだろう。
そう思いながらも体は動かない。
「もう私は動けない。動けるならあなただけでも…」
「大丈夫…」
意識がだんだんと薄れていくのが自分でも分かる。
今私を見ているのは、神様でもあの星でもない。
でも、最後にまた、あなたといれてよかった。
「…私、今、またって?」
何か大切なことを忘れている気がする。
そう思いながらも意識が遠のいていく。
どこか暖かさを感じながら…
どのくらいの時間が経ったのだろう、私は目を覚ました。
「…え?生きている?」
ぼんやりとした視界の中で、私はゆっくりと瞬きをした。
天井が見える。
白い布団に包まれていることに気づき、慌てて体を起こそうとしたが、全身が思うように動かない。
「み、みどり、目を覚ましたのね?」
聞きなれた優しい声が隣から聞こえる。声のする方を見ると、そこには母の顔があった。
どこか泣きそうでどこか嬉しそうな複雑な顔をしていた。
「ここは?どこ?」
喉が乾燥していて、うまく声が出ない。
「ここは、病院よ。あなたが登山に出掛けて帰ってこないから、通報して捜索隊に探してもらってたのよ。
でも本当、無事に帰ってきて安心してわ…」
母はろくに寝れなかったのだろう。
一気に疲れが顔に出てきたのが分かった。
「一人で怖かったでしょ…」
一人?
記憶が混乱している。
確かに私は雪山で遭難し、意識を失った。
でも、確かもうひとり…
「…あっ!彼は?だいちはどうなったの?」
「だいちくん?...あなたは一人で登山に出掛けて、一人で助かったのよ。」
「それに…だいちくんは去年あの山で死んだのよ...」
「え?でも確かにあの時二人で一緒にいた記憶はあるの...」
私は今、混乱しているのかもしれない。
確かに去年、彼は死んだ。
私は彼の最後の景色を見たくて同じ山に登って遭難してのが事実だ。
だから、私は、夢でも見ていたのかもしれない。
でも、最後に感じた温もりは、彼だった。
もしかしたら、私を助けてくれたのかもしれない。
「私を見守っていたのは、神様でもあの星でもなくあなただったのね」
Satellite of love 青馬 達未 @TatsuB
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