第31話 七瀬と花鈴。両手に薔薇。


 七瀬のコンタクトにはビックリさせられた。

 だが、それよりビックリなのが、七瀬の甘えん坊っぷりだ。


 (これは、眠れる獅子を起こしてしまったかもしれないなぁ)


 七瀬を右腕にぶら下げながら、俺はそんなことを考えていた。


 「おい。ヤリチン。この軽薄女をどうにかしろ」


 不満そうに花鈴が言った。そんな花鈴は不機嫌そうに左手にぶら下がっている。


 (これは両手に花というより、両腕を薔薇の蔓で巻かれているみたいだよ)


 でも、2人とも可愛い。

 俺は幸せ者だなあ。変人だけど、いい子だし。


 「ちょっと、花鈴っ。光希はこらからアタシの家でピアノの練習するんだから、ついてこないでよっ」


 七瀬が何かを言うと、花鈴もすぐさま言い返す。


 「個室に行くとか、ますます、ボクがついていかないと。七瀬、お前、また既成事実を作る気だろう。この泥棒猫」


 この2人。仲が悪そうで実はそうでもない。

 いつの間にやら連絡先を交換していて、俺の知らないところでは、実は助け合っているらしい。


 七瀬の家につくと、花鈴はキョロキョロとした。部屋に通され待っていると、花鈴が言った。


 「光希。まさか、七瀬に欲情してないよね? もし、したら。わかってるかな? 君のチン先がどうなっても知らないよ? ふふっ」


 浮気したら、呪われて先っぽが痛くなるということらしい。こええ。


 「いや、ちゃんとした彼女になるまで、そういうことするつもりはないし」


 すると、花鈴はニヤリとした。

 右手で横ピースサインをつくり、目に添えると顎を少し上げて言った。


 「小さきものよ。1ヶ月以内にボクとしないと、君のチン先は魔女の呪いで破裂するのだ。いいのかな?」 

 

 「毎度のことだが、お前の方がチビだろ」


 最近、よくこのへんなポーズをしてるんだけど、花鈴のマイブームだろうか。


 すると、タイミング悪く戻ってきた七瀬が俺に抱きついた。


 「じゃあ、光希。アタシとその前にしようか。朝から晩まで。天国に連れて行ってあげる♡」


 俺は思わず生唾を飲みこんだ。

 花鈴は、俺の喉仏の動きに気づくと、口を尖らせていった。


 「ず、ずるいぞっ。このデカ乳女がっ」


 七瀬は花鈴をみると目を細めた。


 「口だけの処女ちゃん、アタシがやり方教えてあげようか?」


 「ほ、ほんとうか? そしたら、チッパイのボクでも、光希を誘惑できるか?」


 花鈴は単純なんだかやめてくれ……。


 七瀬はニヤリとした。


 「んじゃあ、こんど3人でする? 実地で教えてあげる♡ こうやって指2本で持ってね……」

 

 「ほ、ほう。ずいぶんと細いのだな。わ、わかった……」


 花鈴はストローをもつような姿勢になった。


 「花鈴はわかるなっ!! それに俺はそんなに細くないっ!!」


 さすがに俺は口を挟むことにした。

 つか、七瀬には嫉妬という感情はないのか。


 「七瀬、嫉妬とかしないの?」


 七瀬は唇に人差し指をあてた。


 「うーん。花鈴と2人で独占するのも悪くないかなって。下手に他で浮気されるよりは安心っていうか」


 なぜか、俺は浮気する前提で考えられているらしかった。


 「それに……」


 「それになに?」


 七瀬は続けた。


 「2人で協力すれば、ことりちゃんに負けないかなって。光希、気づいてないの? ことりちゃんの目。君に恋してるよ」


 そなのか?

 たしかに、最近、やたら先生に勉強会に誘われるとは思っていたのだけれど、


 花鈴も俺に抱きつきながらいった。


 「ところで、七瀬。おまえ、霊感強いだろ」


 おまえ……って、七瀬は年上なのに口悪いなぁ。


 「ん。なんで? 人に言ったことないんだけど」


 「やはり。七瀬はオバケ怖くないのか?」


 「んー。慣れちゃったよ。だって、毎日、見るし」


 「そうか。お母上は、何もいわないのか? 力を操るための修行は?」


 「別に。うちの両親、忙しいし」


 「ふむ。隔世なのかな。訓練も受けていないのか。だったら、ちょっと可哀想だ」



 花鈴は何を言っているのだろう。

 でも、七瀬を心配そうな目でみている。

  

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