第24話 ことりの個人授業

 

 週末のある日。

 ことり先生が個人授業をしてくれることになった。


 結局、教えてくれる場所は、ことり先生の家ということになった。なんでも、外で個人的に会ってるのがバレるとまずいらしい。


 他人の目を盗んで逢瀬なんて、まるで不倫カップルみたいだ。


 それにしても、荷物が重い。

 俺の場合、中学の内容からやり直した方がいいらしく、中学生の教材を持っているのだ。


 教えてもらったアパートに行き、チャイムを鳴らす。ドアが開くと、ことり先生がいた。


 肩が開いたニットのワンピースを着ている。髪は太い三つ編みで、一つに纏めて片肩から下ろしていた。


 丸くて大きい目に、丸い顔。

 いつもより、しっかりメイクをしている。


 目が合うと、ドキッとしてしまった。


 やっぱ、この人、普通に可愛いよな。

 なんで相手がいないんだろう。


 ことり先生の家は普通のアパートで、俺が初めて一人暮らしした家を思い出した。玄関に入ると、下駄箱に収まりきらないブーツが並べてあった。


 ……働く女子の部屋って感じがする。


 俺がテーブルに座ると、先生はキッチンに立った。生足だ。初めてみる先生の生足は、つるつるしていて、綺麗だった。その後ろ姿をみていたら、翔の声がリフレインして頭から離れなくなった。


 「バックからガンガンやりたい」


 「締まり教えて」


 その言葉が頭から離れない。


 俺の横にはベッドがある。

 先生は毎日、ここで寝てるのか。

 布団にダイブしたい。


 ……おれ、こんな調子で、勉強できるのかな。


 俺が問題集をしていると、先生が隣に座った。髪をかきあげて、俺の頬のすぐ横で、ヒントをくれたりする。


 どうやら俺は中学生の問題すら間違えてしまうらしい。先生は、俺のノートに直接添削してくれた。


 少女の匂いではなく、成熟した女性の匂いがする。


 やばい。

 頭がクラクラする。


 横を見ると、先生の瞳が目の前にあった。大きくて潤んでいる。


 「光希くん……」


 そして、先生の顔が近づいてくる。

 艶やかな唇は、少し開いていた。


 おれは、ここでキスするのかな。


 そしたら、今俺のファーストキス。

 元飯塚君はどうなんだろう。


 すると、先生の唇の端が上がった。


 「光希くん。ブーッ!! 中学生の問題も間違えてるーっ。これは、先生の思った以上にヤバいぞ?」


 「え? まじっすか?」


 中学生の問題もできないのは、さすがに恥ずかしい。色気付いてる場合ではなかったらしい。


 そこからは、本気の勉強会になった。


 中1の問題から解いて行く。

 中2、中3の内容も完璧には程遠い。


 間違えるたびに、先生が直してくれる。

 俺のノートに直接、公式やヒントを書き込んでくれて、俺が家に帰ってからも、1人で復習できるように配慮してくれているのが分かった。


 (この人、実は教えるのうまいんだな)

 

 ただ、夢中になると、先生がどんどん近づいてくるのだ。気づけば、肩や腰が俺の右半身に密着していた。


 「せ、先生。くっつきすぎです」


 俺は先生の方を向いた。

 

 「あっ」


 すると、先生も俺の方をみていて、唇と唇が腫れてしまった。


 この身体には初めてであろう女性の唇は、ぷるんとしていて柔らかかった。


 また頭の中で、「バック」、「締まり」という翔の声がリフレインされる。


 ちょっとヤバい。

 このままだと、今俺の初体験の相手は、本当に先生になってしまう。


 「先生、すいません!!」


 俺が身体を離そうとすると、先生は少しだけ悲しそうな顔をした。


 むわっと女の子の匂いがする。

 先生は潤んだ瞳で、俺をじーっと見つめてくる。


 「2人の時は、先生じゃなくて、ことりって呼んで欲しいな……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る