プロローグ
さて、本日は武術大会の当日である。俺はその大会に出場したりはしないのだが、それとは別に俺にとって大事なイベントが本日、行われる。
そう、なんと俺は女子に一緒に出店を回ろうと誘われたのだ。ついに俺にも春が来たのか。誘ってくれた子はあまり話したことのない子だったのだが、そんなのどうでもいいだろう。大事なのは俺が今日、女の子に誘われたという事実である。そんな事実に胸を躍らせ屋敷を出る。既に慣れ始めた道を歩いているとじきに学園の立派な門が見えてくる。そしてその門をくぐり────
轟音が、鳴り響いた。擬音にするならば、ドォォォンッッ!!といった具合だろうか。音の聞こえ方から考えるに、それなりに遠くの場所から聞こえてくるようだが…………。
あたりを見回すと、遠くの方で煙が立ち上っている。火事か………いや、爆発事故でも起きたのだろうかと考えていると、ドンドンと断続的に破壊音のようなものが聞こえてくる。
「こわ……」
テロか何かだろうか。少し怖いが、何とかなるだろうと思い、学園の方に向き直り、今度こそ門をくぐろうとしたとき、急に学園が大きな音を立て、崩れた。
「…………は?」
一瞬思考が空白に染まる。
目の前で、大きくきらびやかだった学園の三割ほどがが瓦礫となり、ガラガラと崩れ落ちているが、その事実を認めるのに少しの時間を要した。いったいなぜ?そんなことばかりが脳を埋め…………いや、学園が崩れる数舜前、俺の見間違いでなければ何かが落ちてきたような…………。
必死に思考を働かせていると、何かが瓦礫の中から飛び立った。そして、そのなにかが再び学園に落ちる。ドォォンッ!!ッと爆音を響かせながらまだ建物としての原型を残していた部分を破壊するそれを見て、やはり最初に見たものは見間違いではなかったのだと認識するが、そんな事より………………そんなことより、なんだ?俺は何をすればいい?なんだ?この状況は。意味が分からない。どうすればいい?
何の脈絡もなく眼前で行われ始めた学園の解体ショーを、学園が、出店が、完全に瓦礫の山に代わるまで見届けたところで、あたりが悲鳴に包まれていることに気がついた。
いや、おそらく悲鳴自体はさっきから聞こえていたのだろう。俺の脳が、目の前の出来事を処理するのに精一杯で、聴覚にまで意識が向かなかったのだ…………と思う。というか、悲鳴だけじゃないな。そこかしこから破壊音が響き渡ってきている。これに気がつかなかったのか、俺は。
と、とりあえず状況を把握しないといけない…………よな?
そう思い、瓦礫と化した学園に向かいゆっくりと一歩踏み出す。
「と、とりあえず生存者…………だよな?」
そう、がれきに埋まってる人がいるかもしれない。さがして────
「君!!大丈夫か!?」
後ろから肩をつかまれる。振り向くと、全然知らない人だ。鎧姿からして、騎士か何かだろうか。
「え、あ、いや、でも…………」
「でもじゃない!襲撃があったんだ!早く避難しなさい!!」
「え…………」
しゅうげき…………襲撃?襲撃があった?誰から?なんで?なんのために??
「襲撃って…………だれから?」
「それがわからないんだ!黒い騎士の軍勢が急に現れて…………クソッ!!」
そう言う騎士の後ろに、ゆらりと黒い騎士があらわれ、手に持つ剣を振り上げる。
「あ、後ろ…………」
「いいから君も───」
ズバッと表現するべきか、ズシャっと表現するべきか。そんな音とともに血飛沫が舞い、騎士の人は倒れた。
そして、それを為した黒鎧の騎士がこちらに向き直り、剣を振り上げる。
なんだこの騎士は。襲撃って、こいつ……………いや、こいつらか?いやいやいや、そんなことを考えてる場合じゃないだろ。俺このままじゃ殺されるんじゃ……………。
「やばっ……!」
振り下ろされる剣を横に飛んで回避する。まずい、あまりにも色んな………というか凄いことが起こりすぎたせいで思考がまとまっていなかった。
落ち着け、考えてもわからないことは無理やり隅に置いて、自分の状況と、今できることを考えろ。
やっとのことで無理やり切り替えた思考で騎士を見据える。こう、男子中学生が好きそうな黒い鎧を着ていること、王都に襲撃をかけて現在進行形で各地で破壊音が響く………すなわち、王都への襲撃、こと破壊活動においては大成功を収めているであろうなにかの組織所属ということから、本職の騎士か何かだと思っていたのだが、動き出しが普段より数段遅かった俺でも躱せる程度の剣速。
どうにもちぐはぐな気がする。
まあ、相手が多少弱かろうがそもそも武器の一つも持っていない俺が鎧を着こんだ騎士を相手にするのは───
目の端に、さっき目の前で殺された騎士の剣が映る。
おいおい、嘘だろ?マジかよ俺。それは無しだろ。流石になしだって。こう、なんというか、倫理観とか………。
頭ではそんなことを考えながら、騎士の腰から剣を引き抜くと、そのまま駆け出す。黒い騎士に、ではない。凄まじいまでに別方向。俺は全力で逃げだした。
自分でも何がしたいのか、何をするのか論理的に説明できない。どうやら混乱を隅に置ききれていなかったらしい。
悲鳴を上げ、逃げ惑う人々の間を走り抜ける。何故か家の方向に向かっている自分にびっくりである。
「なっ…………!」
何故か家への道を辿って、途中のある曲がり角を曲がった時、そんな声が出た。恐らくそれは、俺が学園に到着した時から断続的に続いていた破壊音の正体であったのだろう。
王都の一画、王都を囲む城壁から数キロにわたって住宅街だの商店だのがあったはずのその区画が、すべて、瓦礫と化してそこにあった。
そしておそらくそれを為したのであろう。先ほど出会った黒騎士と似たような恰好をしている数えきれないほどの黒騎士達は、なおも破壊を続けながら王城の方へと進軍していた。
いや、あれは戦闘だろうか?おびただしい数の黒騎士軍団の先頭の方では王国の騎士らしき人々が見えるが、ここからでは数で押しつぶされている様子しか見て取れない。
とにかく、城壁の一部からまっすぐ王城に向かって、目の前の建物を瓦礫に変え、人や騎士を殺しながら進んでいくその軍勢を見ながら……………いや、正確にはその進路を考えながら、思い至る。
「…………あれ?俺の家……は?」
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