サークルって単語にあこがれる

 「サークル……?」


 入学してからしばらくたったある日、リリアン様とリン君の3人で昼食をとっていると、リリアン様がそんな話題を出した。

 なんでもこの学園には前世の部活だかサークルだかのような学生の組織があるらしい……………のだが、そんなことよりもついさっき目の前で起こったことが信じられなかった。なんと、リリアン様がリン君に弁当を作って持ってきていたのだ。いったいいつの間にそんなに進展していたのだろう。

 というか、リン君はあの模擬戦闘の授業の後、俺にちょくちょく戦い方を教えてくれているのだが、その時はもちろん、普段三人でいるときもそんなそぶりはなかった………よな?


 これ、俺邪魔じゃないよな?大丈夫だよな??


 「さ、サークルってどんなのがあるんだ?」


 なるべく動揺を表に出さないように会話を続けるが、恐らく少々顔が引きつっていたことだろう。なんだろう、この感情は、嫉妬とは少し違うな……………困惑?いや、違う気がする。とりあえず、俺の少ない語彙力じゃ言語化のできないものだということだけが分かった。

 しかし、そんな俺の感情など関係ないとばかりに、リリアン様は説明を始めてくれる。


 「そうですねぇ………人気なものなら、剣術に魔術………あぁ、あとは魔球サークルなんかも人気ですかね?」


 なんだよ魔球って、優秀なピッチャーの育成でもするのか?っと思って聞いたら、この世界のスポーツ的なものであるらしかった。

 今日の放課後一緒に見学にでも行こうという話が出たが、用事を理由に断っておいた。いや、もちろんそんな用事など無いのだが、俺は空気の読める男なのだ。……………おせっかいだろうか?


 食事も終わり、リン君がリリアン様に美味しかったと感想を言っているのを見て若干の疎外感を感じながらそれぞれ午後の授業に向かう。


 「しかし、サークルか………」


 冷静に考えて、もしあの二人がくっつくのであれば俺とは必然一緒にいる時間が減るわけで、そうなってくると新しい友達を作る必要があるのでは。新たな友達作りとしてサークルはいいのか……………?

 いやいや待て待て。発想に若干の飛躍があるか?これはあれなのでは、こう、学生特有の、なんというか……………学校の中が世界のすべてに見えて、仲のいい異性はすぐにくっつくという勘違い的な。

 ……………まさか、体の方に精神年齢が引っ張られてるのか……………?


 いや、まさか、そんなこと……………あるのか?冷静に考えてみれば俺はこの世界ですでに10年以上子供をやっているわけだし、そっちの方に少しばかり引っ張られてしまう可能性もある………のかも?




 ※





 今日の授業がすべて終わり、リリアン様とリン君は二人でサークルの見学に行った。そして、その誘いを断った俺は当然のように放課後に暇な時間ができたわけで。


 「よし!サークル見学にでも行くか!!」


 一人で見学に行く事にした。精神年齢云々はいったん置いておいて、あの二人以外にも友達を作っておきたいのは本当である。いやいや、精神年齢云々の話を置いておかずとも、あの二人がくっつくのはもはや自明じゃないだろうか。だって手作り弁当だぞ?女子からの、手作り弁当だぞ?その段階までいって何もないわけはないだろう。いや、その段階ってなんだよ、どの段階だよ。


 パチンッ


 自分の方を軽く叩き、凄まじい脱線をしてしまった思考を戻す。そんなことよりも今は見学に行くサークルを決めなければ。いや、というかそもそも何があるのだろう。有名どころは昼にリリアン様から聞いたが……………ん?


 考え事をしながら歩いていると、ふと目にとまったのは美少女……………の掲げる、サークル募集の文字。


 ……………先輩だろうか。可愛いな。


 ……………………よし!あそこの見学に行こう!!




 ※





 「いや~、入ってくれて助かったよ。先生がうるさくってさぁ~」


 そう言いながら俺の前を歩くのは、この学園の三年生であり魔法錬金サークル所属のプラナ先輩(美少女)だ。

 そう、俺は授業で触れた魔法錬金学に興味を惹かれ、それを専門とするサークルをのぞいてみようと思ったわけだ。決して美人な先輩にまんまと釣られたわけではない。


 やがて一つの扉の前で立ち止まった先輩はくるりと振り返り、宣言する。


 「ようこそ、ここが魔法錬金サークルの活動部屋だよ!」


 「おおっ!」


 あまりに自信満々に紹介されるものだから、思わず激しめのリアクションを取ってしまった。

 そんな俺の反応に満足したかのように部屋の中にずんずん入っていく先輩について俺も部屋をのぞくと、地面やら机の上やらに乱雑に本だの何かの道具だのが積まれている、まさに足の踏み場もないといったような……………こう、汚部屋?が広がっていた。もちろん棚もたくさんあるのだが、そのどれもがパンパンで、整理整頓ができているとはお世辞にも言えない。


 「うわっ……………」


 「ん?どうしたの?」


 思わず声が出る。そしてそんな声を敏感にキャッチした先輩がいる。これは…………ツッコんでいいタイプの部屋なのだろうか?いや、でも、下手にツッコむと嫌われてしまう可能性があるか?ここは一旦別の話を……………お?


 「そ、そういえば、他のメンバーはいないんですか?」


 そう、サークルの活動場所と紹介されたこの部屋には今、俺と先輩しかいないのだ。


 「ん?他?他にメンバーなんていないよ?」


 「おおう………」


 マジですか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る