魔法錬金学

 さて、まるで恋愛系か何かの物語の脇役のような気分を感じ、まさに昨日、明日こそは本気出すと息巻いた俺であるが、それ以前に学生である以上授業は受ける。というわけで、今は選択授業である魔法錬金学の授業を受けに来た。

 魔法錬金学、およそ現代日本の学校では聞かないような授業だ。正直何をするのかは一切知らないが、まあ魔法で錬金するのだろう。うん。


 着席し、待つこと数分。授業開始時刻から少し遅れてやってきたのは一人の女教師……………いや、ほんとに教師か?全身から気怠そうなオーラを発し、目を眠たそうに擦りながら教壇に上ったその女はこれまた気怠そうに口を開く。



 「みなさん、ほんとにこんな授業やりたいですかぁ?つまんないかもしれないですよ?今なら帰っていいですよぉ?」


 静寂に包まれる教室。

 いや、わかっている。皆、俺と同じなのだろう。この教師の発した言葉を処理するのに時間がかかっているのだ。

 なんだ?これはもしかして試されているのか?そういえば前世の学校でもあったな。「やる気がないなら帰っていい!」と怒られて、実際に帰ったら帰ったで怒られる理不尽なやつ。もしやあれの異世界バージョンか?

 ひとまず周りの状況を確認するため、なんとなく傍から見てキョロキョロはしてないかな?っと思われる程度に周りを見回すと、思った通りほとんどの生徒は困惑している。


 ガタッ、と音がした。目をやれば、椅子から立ち上がった生徒。お?まさか帰るのか?こいつは帰るのか?

 そんな若干の期待を宿した目でその生徒を追っていると、自分はこんなやる気のない先生から何かを学ぶつもりはない、と言うのを全身で表現しながら帰っていった。さらにそれを皮切りに席を立ち、出ていく生徒がさらに数人。

 いや、異世界凄いな。多分現代日本でこれをやっても席を立つのは0人か、いても一人だろう。いや、それだけ生徒のやる気が高いのか?


 もうこれ以上席を立つものが出なそうになったところで、教師が口を開く。


 「えぇ………こんなに残るんですか?みんな帰ってくれれば楽だったのにぃ………」


 ………なあ、まさかほんとに授業をするのが怠くて帰らせようとしていたわけじゃないよな?だってそんな奴は教師になろうなんて思わないはずだしな?誰か俺を肯定してくれ。


 「じゃあ、やりますかぁ…………」


 怠そうな顔をさらに顰めて、心底めんどくさそうに授業が始まった。





 魔法錬金学、それはまあ、簡単に言えば魔力を使ってある物体を別の物体に変える。というものなのだが、俺は今凄まじく感動している。


 今やっているのは砂を泥に変えるとかいう使い道がどこでも泥団子を作れる程度しかなさそうなものであるが、確かに発動した魔法っぽいこと、である。思えば、俺はせっかく異世界に来たのに魔法的なものに触れていない。もちろん、この学園にいれば魔法も学ぶし、身体強化も広義では魔法なのだろうが、そういうんじゃないじゃん。

 こう、手でバッとやって目に見えた何かが起こってほしいじゃん?それが起こった。魔法錬金を初心者が行う際、魔法陣が無ければまず失敗する、という文言の元、簡単な形の魔法陣を教えてもらったのもポイントが高い。

 魔法陣を見よう見まねで書いた紙の上に、配られた砂を置き、魔法はイメージが大事とのことなので空気中の水を砂にまとわせるイメージで魔力をこう………バッとやったら泥ができてたんだよ!(語彙力)


 いや、それにしても感動だ。なんというか、めちゃくちゃ異世界っぽいな!!魔法陣って、錬金術って…………。

 ちょっとまわりを見る感じ、できている人とできていない人が半分半分くらいなのもポイント高い。うん、素晴らしい。


 この世界に来てから異世界に来てよかったと思ったことはかなりあるが、今回はその、よかった度(造語)がかなり高い。


 「ふひひ…………」


 おっとまずい、変な笑いが漏れた。

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