第21話

――お兄ちゃん、死なないで…―

理々は、バスの中で、涙をこらえていた。


―理々を、置いていかないで。―

 頭の中で、生きていた頃の、やせ細った、帽子を被った母を、思い出す。


―嫌だよぉ、お兄ちゃん、あの家には お父さんと二人だけじゃ広すぎるし…

お兄ちゃん、いっつも理々の嫌いな人参とか、食べてくれたじゃん…

お母さん死んだ時だって、ずっと頭撫でてくれたじゃん、…やだよ …―


終点に着くと、すぐに電車に乗り換える。

「お兄ちゃんが、最後に行きたいところ…」






――その頃だろうか、良太は、広い、固い階段を、ゆっくり上る。

落書きの、星と、相合傘が、階段の手すりのそばに描かれている。

「記憶が、曖昧だな…」


理々の顔と、かよの顔を、思い出す。

そして、必死に彼女たちを、忘れないように、何度も足を止めては、頭で確かめてはを、繰り返す。

前に進まない。


「お前、何が見たいんだよ。」

自分に問いただす。

ついに自分は、階段の途中で立ち止まってしまった。

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