第18話

「…。」

むずかしそうな顔をする妹。


「今まで、生きてきて、何かいいことあった?」


「・・・・・・・。


死から逃れられる以外、特にない。

でも、最初の自分の体と比べると、好き放題やってたと思う。」


「幸せだった?」


良太は、悲しそうに笑った。


「ずっと幸せだと思ってた、


けど…記憶が、いまいち あやふやになって…

長年生きてきたから、記憶の容量が、オーバーして。


おかげで、始めの本体が、いつから始まったかさえ、分からずじまいだよ。


それで、孤独でもあって。」


「孤独?」


「それだけは、分かるんだ。」

良太は、かけ時計をちらっと見た。

理々は、

「あれ?」と、言った。


「お兄ちゃん、今、テレビの音、跳ばなかった?」


1階から流れていた、消し忘れたテレビ。


「さぁな。」

 良太は制服のまま、玄関に向かった。


「もう一度、会ったら、ホワイトデーにでも、何かプレゼントするよ。」


「お兄ちゃん、何処に行くの?」

 そう言った時には、良太の姿はなかった。

 理々は、開けっぱなしの玄関の戸、そして、足音一つ聞こえない事に、不安がよぎった。

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